見慣れた紺のブレザー。その見慣れた後ろ姿。

遠くからでも間違えようもない、
自分の彼女と一緒にいたのは、よりによってあの人だった。








“うたがい”





「飛雄も嫉妬とかするんだ」
「嫉妬って、いうか」


彼女はいつも通りに落ち着いていた。

何だろうこの感じ。
俺が一人で空回ってるだけのような。


「何で、及川さんと一緒にいたんすか」
「仲いいもん」
「…いつから」

中学の頃、二人は同じクラスだった。
でもそんなに親しいわけではなかった。
少なくとも俺はそう思っていた。


「飛雄、わたしのこと疑ってるの」
「…、そんなこと」
「及川とは、なんでもないよ」



本当になんでもないときの口調と表情で、
この人はこう言うけど、不安は消えなかった。


中学のときから好きで、高校で再会できて、
最近ようやく付き合うことができた。
俺を好きだと言ってくれた。選んでくれた。それなのに。


仲がいいというのが本当だとしても、
別々の高校に通う二人がわざわざ一緒にいるのは不自然だ。

でもそれ以上に、さっき、何となくだけど、
二人の間の特別な信頼みたいなものが感じられた。
そのことが嫌な予感を煽った。



「年も一緒だし、なんか似た者同士っていうか。気が合うの」
「だからって」
「ごめんね」

彼女は穏やかに俺の言葉を遮って、微笑んだ。

「わたしもう、飛雄の彼女だもんね。気をつけるよ」
「…ハイ」
「いつまで敬語なのかな」

そう言って苦笑して、それから隣の俺の肩にもたれかかる。
ふわりといい匂いがする。



「なまえ呼んで」
「…名前、さん」
「ううん」
「…、名前」
「なあに」

自分が呼べって言ったくせに。
俺が何か言うのを待つように、見つめてくる。





「好きだ」

「わたしも好き。飛雄だけだよ」





いつも主導権は彼女。
不思議とそれが嫌ではなかった。最初から、ずっと。

だけど今日は、彼女のことを狡いと思う。



彼女はすぐに人を夢中にさせる。
自分でもそれをわかっているのだ。

俺が彼女のことを、
たとえ何があったって、好きで仕方ないことだって。





その魅力が、魔性が、色気が、俺の前でだけ発揮されればいいのに。







「名前」
「なあに、飛雄」






繋ぎ止めていたいのに、その方法がわからなかった。




「…何でもない」



fin.

(どうかどこにも行かないで)









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