感謝




 ユーリはジュディスを見上げた。
「迷惑かしら?」
 剣の手入れをしていたユーリに、ジュディスは笑顔で紙袋を差し出す。
「甘いものは好きだったわよね。深い意味はないの。迷惑ならいいわ」
 バレンタインデーのチョコレートではあろうが、そこに他意はない。立ったまま笑みを浮かべるジュディスに、ユーリも笑顔を返した。
「いや、有り難く頂戴するよ」
 剣を置き、座ったまま受け取る。
「ジュディが作ったのか?」
「ええ。まあ溶かして固めただけのものだけれど。だから味に間違いはないわね」
 たいていのことはそつなくこなすジュディスのことだ。言ってるとおりのものが入ってるに違いない。
「サンキュー」
 言いながらガサガサと音を立て、ハート型のチョコレートを取り出した。苦笑いするユーリに、ジュディスは表情を崩さなかった。
「たまには気取ってみたくなるものよね」
「たまには、な」
 豪快にかぶりつく。言ったとおり、市販のチョコレートを溶かして固め直しただけのものらしい。期待はしていないが、間違いのない味。
「日頃の感謝の気持ちよ。言ってみれば義理チョコよね」
「そりゃどうも」
「ふふ、どういたしまして」
 再び苦笑いしたユーリに、少し意地悪な笑みを向けた。
「お返しは期待してるわよ?」
「…マジかよ」
 三度めの苦笑い。
「ま、こちらも感謝の気持ちをお返しするさ」
「それでいいわ」
 言い残してジュディスは立ち去る。ユーリはその背中を見送り、残ったチョコレートをくわえながら置いた剣の手入れを再開した。



 END.


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