パッション・フルーツ




「はい、ロイド。バレンタインデーのチョコレートだよっ」
「ありがとう、コレット」
 毎年恒例、幼なじみ同士のやり取りである。
「またいつもの?」
「うん、いつもの」
 中身が何かももう解っている。箱を開けてロイドは笑った。
 チョコレートをコーティングされた、数種類のフルーツ。イチゴ、バナナ、パイナップル…フルーツ好きの彼女らしいバレンタイン・プレゼントだ。
 その中からひとつを取り、口に放り込む。
「うまいけど…さすがに、な」
「一年に一回なんだよ? 飽きっぽいんだから、もう」
 言い淀むロイドに、コレットは頬を膨らませる。
「…チョコレートで味付けした肉とかあったら面白いのにな」
 コレットは驚いたように口を開けた。
「すごい発想だね!」
「だろ?」
 得意げにロイドは鼻を鳴らす。
「スープみたいにチョコレートの中にお肉を入れるとか」
「それじゃあ肉の味がわからないだろ。どうせならでかい肉にしてチョコステーキとか」
「でも、ただお肉にチョコレートをかけたただけじゃ…」
「いいや、やってみなきゃわからないだろ?」
「そだね、今日の料理当番はジーニアスとリーガルさんだから、リクエストしてみよっか」
「あのふたりなら何かうまい料理が出来るんじゃないか?」
 どこかズレている会話だが、このふたりにとってはこれも日常茶飯事である。
「…来年は違うチョコレートにするね」
「なんでだよ」
「だって、飽きたんでしょ?」
 ロイドは少し唸ってから首を振る。
「やっぱり、いつもと同じでいい。コレットらしいだろ?」
「でも」
「いいんだ。今まではコレットからしかもらったことなかっただろ。今年は先生からもしいなからもプレセアからももらったし。どれも…いや、先生の辛いチョコはともかく」
 一度言葉を切って苦笑いする。
「どれもうまかったけど、いつものコレットのを食べると、なんだかホッとするから」
「ロイド…」
 コレットは胸の前で指を組み、嬉しそうに目を潤ませた。
「えへへ。じゃあ来年も、ね?」
「ああ。来年も、だな」
 ロイドもニッと歯を見せる。
「約束」
「うん、約束」
 指切りを交わし、ふたりは微笑みあった。



 END.


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