リアラから差し出されたチョコレートを目の前に、カイルはまぶたをしばたたく。大きなハート型のそれは、紛れもなくバレンタインデーのそれで…。 「これ…オレがもらっていいの!?」 リアラの笑顔に困惑が混じる。 「もちろんよ。カイルのために作ったんだもの」 ここ数日の間に、ロニからバレンタインデーの話は聞かされていた。もちろん、リアラに入れ知恵し、チョコレートの作り方を教えたのはナナリーである。 かといってジューダスがそれをただ傍観していたというわけでもない。媚薬と称した某かの薬品をチョコレートに混入させようとするハロルドを牽制するという役目を買って出たのだ。 この陰の功労者たちがあってこそのふたりのバレンタインデー。恋愛事情に疎いカイルが、リアラからのチョコレートを期待するまでにさせたロニの作戦は成功と言えた。 「リアラがオレのために…」 じーんと感激しているカイルに、リアラはふふっと微笑んだ。 「そんなに喜んでもらえて、私も嬉しいわ」 「喜ばないわけなんてないよ!」 早速とカイルはチョコレートにかぶりつく。 「…どう? 初めて作ったんだけど、ちゃんとうまく出来てるかしら」 口の中をチョコレートで埋め、カイルはうんうんと頷いた。無理に喋ってこぼしてしまうことすら勿体無い。 「よかった」 その笑顔に、カイルの胸が熱くなる。感激し過ぎて、涙が目に溜まるほどに。 「そんなに頬張るからよ」 涙の理由をリアラは誤解してしまったようだ。 リアラにとっては充分嬉しかった。カイルが喜んでくれていることは一目瞭然であるし、苦しくて涙目になるほどにがつがつと食べてくれるなんて。 ハンカチを取り出したリアラに涙をそっと拭われ、カイルは余計に嬉しくなる。 「違うんだ…」 「え…」 「オレ、リアラがオレのために作ってくれたのが嬉しくて。泣きたくなっちゃうくらい嬉しいんだ。ホントだよ?」 「カイル…」 はじめ、リアラは驚いた顔をしたが、照れくさそうに鼻の頭を掻くカイルを見てくすくすと笑いだした。 「り、リアラ…、笑うことないだろ」 「ううん、可笑しいの。カイル、口の周りがチョコレートだらけなんだもの」 「…え、ウソ!」 「本当よ」 今度は涙でなく、チョコレートを拭う。 「はい、取れたわよ」 「…リアラ」 「なに?」 「ありがとう」 「…どういたしまして」 少し見つめあい、どちらからともなく笑い合う。それは最高のバレンタインデーだった。 さて功労者たちはというと、幸せそうなふたりを遠巻きに眺めつつ、次に臨むホワイトデーの作戦を練っていたのであった。 END. |