jealousy 〜コレット編〜




 声が、出なくなった。
 その現実を受け入れて、こうして自分はいよいよ天使になるのだと、自覚を持った。残された時間は少ない。まだ人間であるうちに、心残りをなくしておかなければ。
 この美しい夕焼けを、美しいと感じる心も失われるのだろう。感傷とともに。

「コレット…」
 しいなの声だった。泣きそうな顔。しいなは、優しい。コレットの口元が綻びる。
 そうだ、彼女に伝えたいことが、あった。
 おいでおいでする。しいなは首を傾げたが、とりあえず従いコレットの傍に寄る。
 手を差し出すジェスチャー。しいなは手を差し出した。
「なんだい?」
 コレットはしいなの掌に文字を書く。

 しいなは ロイドのこと 好き?

 頬がさっと赤くなる。
「こんなときに…何言ってんだい」
 コレットは首を振る。

 ふざけてるんじゃないよ ちゃんと答えて

 真摯な眼差しだった。嘘を許さない目。頬の赤みが引かないまま、しいなはゆっくりと頷いた。
 やっぱり。そう掌に書き、コレットは笑った。

 私ね しいなのことが ずっと うらやましかったんだ

 夕焼けに照らされたコレットの顔は、余計に切なそうだった。
「どうして?」
 声が出るのなら、ふふ、と笑ったのであろう。

 だって しいなは 私より大人だし 強いし 料理も上手でしょ お裁縫もできるし 美人だし スタイルだっていいし 何より 優しいし

「そう褒めちぎられても、…照れちゃうよ」
 しいなも笑った。

 だからね ロイドとしいなが話してるのを見ると 胸の奥がぎゅうっと痛くなるの

 それはしいなも覚えた感覚だ。口を開こうとしたが、コレットの指先に遮られた。

 もちろん しいなのことも大好きだよ?

 わだかまりのない笑顔。それがかえって切ない。

 私ね 生まれたときから神子で ずっと特別だった みんな私と距離を置いてた

 声さえ出れば、気持ちを伝えるだけでこんなに時間を取ることはないのに。暗くなり始めた空に、コレットは少し悔しくなった。

 ロイドとジーニアスだけだったの 私を普通の女の子として接してくれたのは

 しいなは黙ってコレットの話を受け止めようと、掌に集中する。

 リフィル先生は 私を女の子としても見てくれたけど 全部知ってたから やっぱり神子として接してた

 リフィルは大人ゆえに、現実を見ていた。それは責められない。

 だからね 嬉しいの 好きな人の話が出来ること

 コレットの笑顔は屈託がない。その内側でどれくらい泣いて来たのだろう。

 しいなはね 私の 初めての 女の子の友達なの

 胸が締め付けられた。コレットが言ってくれたことが嬉しかった反面、後ろめたさもあった。もともとは再生の旅を妨害するため――コレットを暗殺するためにシルヴァラントに来たのだから。

 この 胸の痛み 嫉妬 っていうんだよね しいながいるから 感じることができたの しいなとは友達だけど 恋のライバルだね

 勇ましく拳を握るコレットに、しいなは苦笑いした。
「そうだね。負けないよ」
 少し冗談めかして言った。太陽がほとんど姿を隠したせいで、コレットの表情はよく見えなかった。
 首を横に振ったのは、解った。

 あのね しいな

 改まった態度に、しいなは笑みを消す。

 人間としての感覚を全部失って この胸の痛みも感じなくなって 私が 天使になったら

 その先の言葉に、しいなは自分の読み違えを疑った。
「どういう…意味だい。あたしを、怒らせる気かい?」
 コレットは、首を振らなかった。怒られても仕方のないことだと思ったからだ。

 お願い しいなだから お願いするの そんな辛そうな顔 しないで

「それ以上…言わないでおくれよ。そんなの…」
 泣きそうな顔。泣いてほしいわけじゃない。



 私が 天使になったら



 ロイドを お願いね



「そんなの、許さないよ。戦う前から、リングを降りるなんて…」
 ごめんね。コレットは心の中で呟いた。しいなの手をぎゅっと握って、祈るように目を閉じる。

 しいな、大好きだよ。ありがとう。私のためにこんなに泣いてくれるなんて。嬉しいよ。ごめんね。こんなに泣かせちゃって。
 伝えきれないたくさんの想いを抱えて、コレットはしいなの手を握り続けた。



 end.





 W&R用の書き下ろし。ちょっとシリアスな感じです。
 珍しくコレットです。会話の相手はしいなですが…。

 編と付くからには他キャラでも書くつもりです。元々タイトルはJEALOUSYだったのですが、悩んだ末にjealousyに変更した経緯があります。ジェラシーとか嫉妬とか…いろいろ迷った結果です。特に深い意味はありません(

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