一方通行




「ゼロスはしいなが好きなのね」

 思いっきり吹き出した。
「リフィルさま、いきなり何を…」
「言葉のままよ」
 ゼロスはばつが悪そうに頭を掻く。傾斜のついた草むらに寝転がって、ジーニアスと共に食事の準備をしているしいなを見ていたのだ。反論は出来まい。いや、ロイドやコレットならごまかせるが、この女性が相手では無理だ。
「認めるかしら?」
 寝転んだままのゼロスを、リフィルは立ったまま見下ろす。お互いに口元は笑っているが、眼光は鋭い。
「勘がいいね、リフィルさまは」
 認めた。男は再び想い人に視線を戻す。炊き出しの良い匂いに、ロイドやコレット、プレセアが集まってきた。リーガルも遅れて登場する。
「薄々は気付いてたけど、確信を持ったのは最近よ。あなたとしいなの会話を聞いていて、ね」
「盗み聞きかよ…趣味が悪いぜ」
 上半身を起こして肩をすくめる。
「どんな会話?」
「セレスのことを話していたでしょう。あなた、セレスにしいなは恋人だと言ったそうじゃない」
 それか。しかし確信に結び付けるには弱い。
「でも、それだけじゃないんでしょー?」
「勿論よ。状況証拠ならいくらでもあるわ。今思えば…というのも。いくつか列挙してみましょうか」
 この頭の切れる女性がどれくらい理解しているか。ゼロスは愉快になってきて、提案に乗る。
「そうね…、出会ってすぐ、ロイドにあなたとしいなの関係を聞かれたとき」
 それはゼロスも覚えている。未来のスウィートハニーだと答えた。
「テセアラ中どころか、私たちにまでハニーと言ってしまえるあなたが、何故しいなだけ『未来の』と付け加えたのかが印象的でね。しいなに関してだけは『今は違う』と正直に答えた上での願望かと思ったのよ」
 なるほど。ゼロスは頷く。
「その後、しいなと再会してからのあなたたちの会話。しいなに、コレットにいたずらするなと怒られたとき、あなた、怒鳴っていたでしょう。しいなにアホ、とまで言って。明らかに他の女性に対する態度と違うもの」
 ゼロスは苦笑いした。全くその通りだ。
「逆に、あなたの取り巻きの、しいなに対する態度。明らかに目の敵にしてるでしょう。理由を考えていたのだけど、最近しいなから聞いたのよ」
「…何を?」
「あなたとしいなは付き合っているという噂が流れたことがあるそうね」
「ああ、確かにあったなぁ」
 当時を思い出してか、ゼロスは笑った。
「その噂、流したのはあなた自身ではなくて?」
 笑いが止まる。固まってしまった。
「リーガルに聞いたわよ。不特定多数の女性を取っ替え引っ替えにしているのは昔から言われていたけれど、特定の女性と噂になったのは後にも先にもしいなだけだそうね」
 ゼロスはさすがに気恥ずかしさを覚え、再び頭を掻いた。
「…どうしてそんなに回りくどい真似をするの?」
 リフィルは真剣な目でゼロスを見つめる。ゼロスもリフィルを見上げた。
「リフィルさまならすぐに解りそうなもんでしょ」
「あなたが神子だから?」
「正解」
 短い問答。
「…コレットとあなたはそっくりだわ。嘘つきで自分の気持ちを隠すのがうまいのよ。そして、そんなあなたたちを神子としてでなく、ひとりの人間として見てくれるロイドやしいなに惹かれている…。コレットもあなたも、もう少し素直になればいいのに。手が届くところに相手がいるのだから」
 ゼロスは肩をすくめた。
「リフィルさまは、自分がハーフエルフであることを理由に恋を諦めたことはないのかい?」
「……!」
「そーゆーもん」
 明らかに動揺したリフィルを追及したりはしなかった。
「あとね、コレットちゃんはどうか解らないけど、うちは家庭の事情が複雑なのよ。セレスは異母妹だって言ったっしょ。俺さまが神託で選ばれた、いわば正妻の息子。セレスの母親は愛人…っつうか元々の恋人。俺さまのほうが先に生まれてる時点で、どんな愛憎劇があったか容易に想像つくでしょ」
 笑って話すゼロスに、リフィルはこの男の抱える恐ろしく深い闇を思い知った。
「俺さまは、しいなをそんなんに巻き込みたくないわけよ」
 ゼロスは立ち上がる。少し悲愴を抱いた表情で、リフィルはその赤い髪を見つめた。
「それと、俺さまとコレットちゃんで決定的に違うところがあるんだよな、これが」
 食事の支度を始めた皆を見て、ゼロスは足を向ける。取り残されそうになって、リフィルは慌てて聞いた。
「…違いとは、何?」
 ゼロスは足を止めた。ゆっくりと振り向くその目は、笑ってはいなかった。

「どんなに俺があいつを好きでも、あいつが好きなのは俺じゃねーんだ」

 哀しい目だった。ゼロスは言い捨ててすぐ、また足を進めた。ゼロスの視線の先にはしいなが、しいなの視線の先にはロイドが――。
 何も声をかけられないまま今度こそ取り残されたリフィルは、哀しい恋にそっと目を閉じた。



 end.





 W&R用の書き下ろしです。
 昔同人活動してたときの小説の続編…のような感じですが、その小説が手元にないので…。見付けたら載せます。

 プレイ中にリフィルとゼロスの腹の探り合いが面白いと思ってました。このふたりは似た者同士で怖いですな。
 一時間くらいで書き上げちゃいました。手抜き、ではなく、さらさら書けました。書くならばこの組み合わせが一番楽しいかもわかりません。
 ただ、どのタイミングでの会話なのかよう解りません…(笑)

 ゼロスとしいなは元恋人、って闇に葬られた設定()がありましたね。ゲームでなくカード?か何かに。私はガールズトーク等で書いたように中途半端に採用してます。噂になったというかたちで。

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