手を伸ばしても届かなかった。それが俺たちの距離だった。そう、気付いた。


「豪炎寺」

振り向いた先には眩しい笑顔。円堂は何時も通りの笑顔だった。俺も笑う。

「どうした円堂」
「お前に言っておこうと思ってさ。こんな夜遅くに呼び出してごめんな」
「いや、大丈夫だ」

お前の誘いを断ったことなんてないだろう。そうだろう円堂。俺はいつだってお前のために生きてきた。お前のためにサッカーを取り戻した。お前がいたから。俺がいるんだ。全部お前のために、俺はお前のもので、。

ふうっと息を吐いた円堂は少し緊張しているようだった。俺はその先の言葉を知っている。耳が拒否をする。塞いでしまいたかった。けれどそれはできない。これが俺の選んだものだからだ。


「俺な、夏未と結婚するんだ」


風が冷たい指先が凍りつく。震えているのは円堂の指と、そして俺の。

「だと、思った。おめでとう円堂」

きっと多分俺は今最高の笑顔をしているんだろう。親友として、友の最高の幸せを喜ぶような最高の笑顔。この日のために練習した。この日が来ることを予想してから何度も何度も涙を堪える練習をした。笑顔も練習した。

「えへへ、一番最初にお前に言いたかったんだ」


その後飲みにいった。俺たちは幸せを分かち合う。親友だから。円堂が幸せなら俺も幸せだから。円堂、円堂。俺は、しあわせだ。お前がしあわせだから。


けれどどうしても涙が出るんだ。この気持ちをずっと隠してきた。お前の側に居続けるために隠して隠して、そして壊れてしまった。お前が差し出すその手は俺だけに向けられるものじゃない。わかっていたけれど。こうしてひとつのかたちとなって襲う。もう、目をそむけることができない。俺の肩にまわされた腕が俺じゃない誰かのものになる。最初から俺のものではないのに。わかっていたのに。


帰路で円堂と別れる。またなと笑った円堂に俺はただ笑顔で手を振った。背を向けた円堂に小さくさよならと呟く。もう俺にはなにもない。サッカーも意味を持たない。お前のものになれない俺は、意味をもたない。



ただ願わくば、この壊れてしまった俺をもう一度、もう一度振り向いて欲しい。お前に嫌われても構わない。もう一度俺に執着をして欲しい。そのために俺は、お前のサッカーを支配する。






さようならかたおもい
(俺はただ、お前のことが「」だっただけなんだ)





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