「松風」

返事はない。膝に顔を埋めたまま松風は動かない。もう一度名前を呼んだが効果はなかった



仕方がないな、と溜め息をついて松風の前に胡座を掻く。松風は動かない


「天馬」


ぴくり、肩が上下した。いつもは呼ばない、松風の下の名。もう一度てんま、と呼ぶ。顔は上がらない。けれどそろそろとのびてきた手が俺の制服の裾を掴んだ。松風が甘える時の仕草だった



「お前らしくないんだよ」


のばされた手を上から握りしめる。いつもよりも低い松風の体温。その指先に俺の指先を絡めた。すがるように俺の体温を奪う指先を今は許してやろうと思う



「…んない」
「なんだ」
「わかんない…よ」


ねぇ剣城はわかる?俺はもうどうしたらいいかわかんないんだよ、そう言った松風はぽろりと涙を溢した。やっと松風の顔が見れた。いつもみたいに笑ってはいないけれども。あの馬鹿みたいに真っ直ぐな瞳が揺らいでいるけれども



「俺にもわからねェよ」

もう一方の手を頬に伸ばす。温かい滴が指先を濡らした



「だよ、ね」

自虐的に笑う松風をみていられなくて俺は松風の濡れた頬に口付けた。さほど驚いた様でもなかった松風はへら、と笑って俺を抱き締めた。ちゅ、ちゅ、と軽い音を立てて松風がキスをおとしてくる。額から鼻先、頬に瞼、そして唇に。いつもみたいに甘いものではなくそれはとても切ないものだった



「お前は、笑って、る方が、お前らしいんだ、よ…っ」
「うん」
「だから、そん、な顔するなよ、」
「うん、」



まるでキスから伝染したかのように俺の目からも涙が溢れてきた。意味がわからなくてでもとても悲しくて嗚咽を必死にのみこむ。同じように泣く松風があやすようなキスをする。負けじと俺も松風にキスをする。溢れる涙を拭うように何度も何度も


「ねぇ剣城」
「ん…」
「ありがとう、」


そういって笑った松風はいつものような晴天の笑顔だった。涙でぐちゃぐちゃだったけれど、それでも松風らしい笑顔だった。そうして俺も小さく笑った。きっと酷い顔をしていただろうが松風が剣城の笑顔かわいい、と吹き抜けた風にのせて呟いた。悔しくて照れ臭くて俺は松風の肩に顔を押し付けた。松風からは爽やかな初夏の風の匂いがした







end









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L5主人公特有の鬱展開を先読み
京介だけが天馬を笑わせてられたらいいよね









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