今日の友人との話は懐かしい話だった。まだ俺が中学生の頃の話。人間観察に勤しむ毎日に新羅という変人の友達からきいていた怪力を持つ男、平和島静雄という興味深い人間について教えてもらった頃だ。興味はあった。けれど俺は一人に執着はしない。だって人間全てがいとおしいのだから!だから俺は平和島静雄のパーソナルデータといった程度の情報しか集める気はなかった。
そんなある日、いつもの人間観察に役立てようと買った雑誌に文通相手募集という企画があった。これは面白そうだと名前をたどれそこには見覚えのある字面があった。ご丁寧に平和島静雄、と本名で投稿されていた。俺は俄然その平和島静雄に興味を持った。あの怪力の化け物と噂されているヤツが文通相手を募集しているなんて。それはとても人間らしくて可笑しくて、俺は手紙を書いた。もちろん男だったら無視されたりするかもしれないので甘楽という女性の名前で送った。


返事はすぐに返ってきた。実は意外だった。本当に返してくるとは思っていなかったのだ。静雄の手紙は粗忽な部分もあったが全体的に相手を気にする言葉が散りばめられていた。書き殴ったような筆圧の濃い字が静雄の外見を構成していく。俺は面白半分で手紙を律儀に返していた。いつもならば興味を持てば調べるし直接接近する。けれどせっかくこういう機会を持てたので俺は手紙、という紙面からの情報だけで平和島静雄を知っていった。姿を知らないなんて俺の中ではなかなかにレアな相手だった。それだけに、ある種特別な感情を持っていた。


ある日届いた静雄からの手紙はいつもの日常についてといった他愛ないものではなかった。それは静雄の力についての話だった。その手紙からはもう返事が返ってこないかもしれないという不安がありありと浮かんできていた。それはそうだ。普通の人間なら看板や教卓を投げ飛ばす人間なんて怖いに決まっている。けど俺は新羅から既に話を聞いていたし、そもそもその力に惹かれていたのだから引くも何もあったもんじゃない。俺は静雄が渇望している人間からの愛、優しさ、それを文字にのせて送った。実はその力について俺に相談してくれたことがたとえ偽りの「甘楽」という人格であっても嬉しかったような気がする。この頃から俺は平和島静雄にある確信をしていた。


俺は、平和島静雄を愛している。



人間全てを愛している俺としては特定の個人を好きになるなんて一生有り得ないと思っていた。けれどこのゆっくりとした文通によって知り得た平和島静雄という人間は俺の心を確実に支配していた。たまに、苦しい、と静雄に告げた。下らない、俺の想いを文字にしたかった、そんな時があった。そんな折、向こうから好きな人はいるのかと問われた。俺は甘楽という女子を演じている。文面上ならば告白だってしたっていい。そう思っていた。けれど俺ははっきりということができなかった。違う、甘楽になりきることが出来なかった。気付いて欲しい訳ではなかった。けれど俺の中の本音を知って欲しかったという無様な欲望だった。


叶うことのない恋だ、と告げた。甘楽として例え告白しても結局何も意味が無い。ただ、甘楽の中にいるこの「折原臨也」という一人の人間を知っていて欲しかった。



雰囲気がとてもいい感じになってきた頃に、向こうから会いたいと言われた。珍しく真剣に悩んだ。会うというのは物理的に不可能だ。女装とかも一瞬考えたがいくら俺でも騙し通せる自信が無い。かといって男だとバラすなんて嫌だ。
平和島静雄の姿を見るということ自体は大して難しいことではない。いくらだって写真なり何なりを手に入れられる。けれど俺は少しだけ浮かれていた。あの静雄が、向こうから俺に会いたいといってくれたことが嬉しいと思えた。俺のために。正確には甘楽のため、だが。だから俺は悩んだ。



結論としては俺はOKを出してしまった。なんと俺に会うために平和島静雄は髪を金髪に染めてくれるらしい。目立つように、と。他にもいろんな手段があるはずなのにそんな短絡的とも言える方法をとるなんて。馬鹿だと笑えるか?いや、もう俺は完全に平和島静雄に恋をしていた。そうまでしてくれるという事実だけが俺の心をときめかせた。待ち合わせの西口公園まで金髪を見る度にそわそわとしてしまう自分がどうしようもなかった。


静雄の姿を一目みたら声をかけることにした。「ごめんなさい、今日甘楽は風邪で寝込んでしまったのでそれを伝えにきました。甘楽はとても会いたがってたので残念です」と。そうしたら彼と会話も交わせて一石二鳥だ。さすが、おれ。ウキウキしながら角を曲がる。公園はもう目の前だ。そしてまあ、ガラの悪い奴らにぶつかるというとても迂闊としか言えないことが起こる。ちなみに一人が金髪で平和島静雄と曲がり角でぶつかるとか漫画みたい!とか一瞬だけ思ったが、思い損だ。見なくたってわかる。平和島静雄はこんなに不細工なはずがない。そんな不細工を筆頭に囲まれて何故かカツアゲをされそうになっている。くそ、こいつら後で覚えてろ。社会的に抹殺してやる。そう思いながらちらちらと公園を気にする。ものすごく怒鳴られているがどうでもいい。ただ金髪だけを探す。目の前のウザい金髪が俺の胸倉を掴んできた。やめて欲しい。服が伸びるじゃないか。その瞬間、男ははるか遠くへと飛ばされた。うん、飛んだんではない。飛ばされたのだ。―飛んできた看板によって…―


「うぜえんだよ、あ?金髪でンなことやりやがって勘違いされたらどうすんだ手前、そうしたら責任とってくれるんだよなぁ?俺に殺されても文句はねぇよなぁ?おい、きいてんのかよ」


ああもしかして。もしかして。金髪だとか関係なかった。もうそれは確実で確信だった。この力、そしてこの荒々しさ。手紙から想像していたそのものだ。平和島静雄が目の前にいる。俺は顔を上げることが出来なかった。怖い?違う。これは、これは、ああもう心臓が五月蝿い



「おい、手前」


俺に声を掛けてきた
そっと視線を上にあげる。身長は俺よりも高い。けれど線は細い。髪は、金髪だ。そしてその薄い茶色の瞳。胸が、くるしい。


我慢できなくなって俺は平和島静雄の瞳から逃れるように踵を返した。くるしいくるしいくるしい。本当は言い訳をしにいかなくてはならない。きっとこの人は待ち続けるだろう。甘楽を。それでももう俺の中の許容量が限界だった。
もう駄目だった。目を合わせてはいけなかった。これではもう、





「逃れられないじゃないか」









「いーざーやぁぁぁぁぁ!池袋にはくんなって何度…」
「ねぇ、シズちゃん、ここわかる?」
「あ?」


にやにやとしながらシズちゃんとの間合いを詰める。

「この公園で、昔シズちゃん待ち合わせてた人居たよねぇ?」

驚いたように目を見開くくシズちゃん。この公園で、俺とシズちゃんは出会うはずだった。

「てめ、なんで知ってんだ…!」
「さあ?なんででしょう?ああでもシズちゃんは金髪のが似合うからそれで正解だよ」

「おい、臨也からかってんなら…」

「あのね、あの日実は俺『甘楽』から伝言を頼まれてたんだ。すっかり渡しそびれてたんだけど貰ってくれるかな?」
「は?手前甘楽となんの関係があるんだよ」
「いいから、ほらこっち見て」
「…っ!?」


『静雄さん、だいすきです』


「いざやああああああ!」

「あははっ、だから甘楽からだってば!怒んないでよ!あっもしかしてはじめてだった?ごっめーん!」

「死ね!今すぐ死ね!つか殺す!確実に殺す!」




掠めた唇は熱い。早い心臓の鼓動に任せて俺は走り出す。馬鹿みたいに今日もきみを探す。そう、あの日から俺はなにひとつかわりはしない






(酷く切ない片想いと酷く甘い両想いを胸に抱いて今日も君を待つ。俺を見つけてくれるのはきっと君だけなのだから)








end






*****


金髪にした理由こんなんだったら萌える。
今ではシズちゃんが臨也を必ず見つけます。ラブだね!







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