真っ白なシーツの上で同じように素肌を晒した状態のまま体を寄せていた。最初は上がった息を整えるように俺の胸に頭を押し付けていたが、落ち着いたらしい臨也は先ほどからはしきりに自分の爪先を気にしていた。最初は放っておいたのだが煙草を一本吸い終わってもなお爪先ばかりを気にするものだから面白くねぇ、とか思った。別に爪にまで嫉妬してるとかではねぇ。…多分。

「おい、」
「んー?なにシズちゃん?」

返事は返ってくるが相変わらず視線は爪に注がれている。そこで気付いたが臨也には珍しくその綺麗な流線を描いた眉が寄せられている。唇も少し突き出している。これは典型的な不満を訴える顔だ。なにか最中に機嫌を損ねることをしたか、と思考を巡らすがこれといって当てはまるものがない。ていうかむしろ喜んでたような…だあああめんどくせえ!

「わ、ちょっと!」
「五月蝿え」
ごちゃごちゃ考えるのはガラじゃないので先程から臨也の視線が向けれていた爪先を腕を引いて近寄らせて睨む。

「あ?」

臨也の爪、正確には右手の人差し指の爪が割れていた。つやつやと光るその綺麗にそろえられている爪先の中でその割れた人差し指だけがやけに目立っている。

「ああもう、気になって仕方ないんだよ。あーあ、せっかく手入れしてたのになあ。これ、伸ばすのにまた時間がかかるじゃない」

ぶつぶつと文句を呟く臨也に呆けて見ていると、ていうかシズちゃんの体が化け物だからいけないんだからね、と怒りの矛先を俺に向けてきた。

「は?俺が何だってんだよ」
「だからぁ、シズちゃんの体が化け物みたいに頑丈だからいけないの。もう、なんで跡の一つもつかないかなあ…」



そういうとゆるりとシーツに同化してしまうのではないかというほどに生白い腕を俺の背中へと回した。さらりと俺の背中を撫でて溜め息をひとつつく。「ほら、あんなに爪立てたのに跡一つつかないし。」むう、と尖らせた口がいつもの毒気たっぷりに吊り上げる口と同じだとは思えなかった。すげえ可愛い。

「ちょっときいてる?普通の人間なら背中に爪立てられて逆に爪が割れるなんてこと有り得ないからね。もうシズちゃんてほんとに理屈が通じない体してるよね。ていうか絶倫なのも化け物だから?俺腰痛くて仕方ないんだけど。あ、違うか。童貞だから加減が判らないだけか。」
「うっせえええ!童貞とか言うんじゃねえ!死ぬか!?」
「うわっやめて、俺本当に腰たたないんだから!」

ぎゅうぎゅうと臨也にヘッドロックをかますとどうやら本気で腰が立たないらしくたいした抵抗も出来ずにもがいていた。その姿が何だかあまりにもその…可愛いもんだから固定した頭をそのままに額から鼻筋、そして唇へとキスを落とした。臨也もそれには嬉しそうに目を細めて応えてきた。

「ふは、シズちゃんさ、また俺が爪綺麗にそろえるまで待ってくれる?」
「あー?待つってなんで。」

すると臨也は欠けた爪先で俺の唇を押さえた


「だってシズちゃん俺の指先好きじゃん。」
「なっ、」
「シズちゃんよく俺の指みてるよね。やっぱ俺としてもせっかく見られてるなら綺麗にしておきたいっていうかさー。シズちゃんにもっと見てもらいたいっていうか、まあ几帳面だしね俺。いちいちやすりで磨いたりマニキュア塗ったりひび割れないようにハンドクリーム塗ったりすんの大変だけどシズちゃんが俺の指にキスすんのとかみると綺麗にしといて良かったって思うわけよ。ね、ってシズちゃん顔真っ赤だよ」

わーシズちゃんかーわいい、とからかう臨也に答える気もしなかった。バレてたこともだが臨也が俺のためにわざわざそんな手間をかけていたことが堪らなかった。


「くそ、手前…」

腕の中へ引いて強く抱き締める。臨也も背中に手を回して更に体を密着させてきた。臨也の髪から甘い臨也の匂いと俺の煙草の匂いがしてまた体が熱くなった。臨也も同じようで細く白い体からは期待するように上気した体温とほんのり色付いたうなじが誘う。シズちゃんと甘さを含んだ声が名を呼んだ。ぎり、と背中に這わされた爪が音を立てる。欠けた爪先は尖り、俺の背中に跡を残す。熱に浮かされた頭であの完璧な爪先もいいが割れた爪先もアイツの隙がみえるみてぇでいいな、とかぼんやり思った。







end







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この二人がラブラブだとむしろこわい。









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