『恋人であるのならば毎日電話をしなくてはならない
恋人であるのならばこの猥雑な路地を歩く時は手を繋がなくてはならない
恋人であるのならば髪を撫でながら愛の言葉を吐かなくてはならない
恋人であるならば愛情のこもった甘くとろけるようなキスをしなければならない
恋人であるのならば優しく愛でるようにその体を抱かなくてはならない
恋人であるのならば広いベッドで二人は抱き合いながら甘いピロートークをしなければならない』



以上、かの有名な化け物、平和島静雄の考える理想のお付き合いである。まさに童て、おっと、ウブなシズちゃんの思考が甘ったるくて小学生の女の子が夢見るみたいな少女漫画の1ページだったもんだから俺は唖然としてしまった。イマドキの高校生だってもっと生々しい、例えるなら愛がなくたって、セックスくらいするような関係を持っているのに。勿論シズちゃんの理想みたいなカップルもこの広い世界にならば何組も存在しているかもしれないがそうではないカップルだって沢山いるということをこの童貞は知らないのだろうか。…うん、知らないんだろうな。


シズちゃんと俺の関係を全て話そうとするととっても長い。長いので完結に纏めると「殺し合いをしながらも体だけの関係をもっているふたり」だ。殺し合いっていうのは比喩でも何でもない。その言葉通りだ。もう何年も続いている。そして体だけの関係っていうのも勿論言葉通り。こちらもなかなかの年月が経っている。きっかけは忘れた。ただ殺し合いからなし崩しのようにセックスしたような気もする。そして頭が悪いシズちゃんはこの関係がどうにも駄目らしい。駄目というのはシズちゃんの脳みそにはセフレという言葉がない。概念もない。つまりセックス=恋人になる。けど俺と恋人なんて死んでもゴメンだと思っている。でも俺との行為は童貞のシズちゃんにとっては中毒性があったらしい。あれからシズちゃんは脱童貞したにも関わらず俺以外の誰かを抱いたことはない。女を抱いたこともない。これで脱童貞だなんて笑える。けど更に笑えるのは俺もシズちゃんの体に溺れちゃったってことだ。まあじゃなければ何年も男、しかもあのシズちゃんに抱かれっぱなしなんて常識的かつプライドも許さない。
とにもかくにも無駄に相性が良かったもんだからよく昼夜構わずお互いに溺れるなんてことはザラにある。そしてさよならした次の日は命懸けのおにごっこ。そしてそのまま以下略ってのがパターン。ここに恋人なんていう関係が入り込む隙間なんてありゃしない。それで話は元に戻るがシズちゃんはこの逸脱した関係性に無理矢理社会にあてはまる肩書きを見つけようとしていた。若かった頃はちょっとした出来心、みたいに流していたが最近は何か思うことがあるらしい。相変わらずの憎み合い殺し合いだが肌を重ねた夜は昔より優しくなった。昨晩は手を繋いで、眠りに落ちた。そして朝になり帰ろうとした俺の腕を引き、呼び止めたシズちゃんが放った言葉。はい、ここでやっと本題




「なァ、付き合わないか」
「…は?」


この俺ですらあまりにも突然すぎて気のきいた台詞が出てこなかった。そしてすぐに今更何が?と言いたくなった。どうせあと二日後にはまた自販機と標識を投げてくるくせに。それでまた今日みたいな朝を迎えるだけなくせに。


「ずっと考えてた。お前と俺のことを」
「ふぅん、シズちゃんがそんなに俺を想ってくれてるとは思わなかったよ。で、付き合ったらシズちゃんは何から解放されるのかな?」
「どういう意味だよ」
「そのまんまの意味だよ。明日からの殺し合いを解放したいの?それともこの体だけの関係?ああ、二つとも解放したいのかな?言っておくけど俺とシズちゃんの関係に何か常識を当て嵌めたって変わることは何一つないよ。俺はシズちゃんの恋人ごっこに付き合うつもりはないし殺し合いもやめない。それに―…」
「臨也」


シズちゃんは抱きしめてきた。いつの間にか馬鹿みたいな怪力で力任せにぎゅうぎゅうと抱きしめなくなった優しい抱擁。シズちゃんの理想みたいな恋人にする抱擁。そう気付いたら馬鹿みたいに口先だけでぺらぺら喋る俺だけ進歩してないみたいで嫌になった。


「ずっと悪かったって思ってんだ。こんな関係ずるずる続けて、手前を傷付けて大事なことはなんも伝えてねェ。でも手前も悪いんだかんな。手前も口ばっか達者なくせに大事なことははぐらかしやがって」
「はは、抱きしめてまで説教すんの?シズちゃん母親みたいじゃない。こういう時はねぇ、黙ってキスしとけばいいの」

そう悪戯に言えばシズちゃんは本当にキスをおとしてくれた。やだな、冗談だったのに。嬉しいだなんて。うん、なんで嬉しいんだろ。やけに目頭があつい。馬鹿みたいだ。馬鹿みたい。憎しみと嘲笑と情欲で塗り固めた感情はこんな呆気なくはがれてしまいました。得意の口先だけの言葉は俺のリクエストでシズちゃんに塞がれてしまいました。もう、降参だよ



ゆっくりと離れたシズちゃんの唇を指先でなぞった。シズちゃんはゆるく笑って、それから、それから。



「好きだ」







ああ、なんだ。少女漫画みたいな甘い恋人ごっこに憧れてたのはどうやら俺の方だったみたいだ








end






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シズちゃんが男前になりすぎた










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