「鬼男くんの心臓は俺を認識している?」


そう呟いた大王は僕の喉仏から下へと指を移動させた
真っ白でおんなのように綺麗なその指が微かに爪を立てて心臓へとたどり着く


「認識していますよ。僕の心臓はアンタのものだから」
「ふふ、だよね。だって、こんなにはやく、脈打ってる」

それはアンタの、言いかけてやめる。そういうことにしておく。この心臓は僕のものではなくて、アンタのものであるということでいい。期限付きのアンタのためだけに拍動する心臓


トクトクときこえる音に耳を澄ませて、僅かに食い込んだ指先から感じ取るように、大王はゆっくりと目を閉じた。ほら、アンタのために俺の心臓は鳴るんだ。この心臓から送り出される血はアンタを守るために、アンタを抱きしめるために巡るんだ

「ね、鬼男くんはきこえる?俺の心臓の音」

大王の手が重ねられて大王の白い胸に手を置かれた。相変わらずの規則的な音

「きこえますよ」
「そう?これは心臓の音といっていいのかな」
「そうでしょう。それは大王の心臓です」

そういえば一瞬悲しげに揺らいだ瞳、しまった。地雷だったのか

「俺の心臓はね。生きるために鳴るんじゃないんだよ。俺が動かなくなることを阻止するためだけの拍動。だから生きるためなんかじゃない」

悲しいね。そう笑った大王の拍動は一切揺らぐことなく刻み続けている

「俺は鬼男くんの心臓が羨ましい。儚くても生きる心臓が羨ましい」
「大王」
「昔は気にもならなかったのにね。変なの。鬼男くんの心臓を知ってからずっと辛いんだ」


君をいつか失う日がきたら俺の心臓もとまるのかな



ぎゅうっと抱きしめた大王の体は震えていて、でも微かに脈打つ心臓は規則正しく動いていて。


「鬼男くん…?」
「とまればいい」
「え?」
「僕が死んだら大王の心臓もとまればいいって言ってるんです。アンタが死んだら僕も死ぬし僕が死んだらアンタも死ねばいい」

ぽかんと開いたまぬけな口が小さく笑って僕の心臓にまた爪を立てた

「そうだね。俺も鬼男くんの心臓と一緒に死ねたらいいなあ」
「いいなあ、じゃなくて死ぬんです」
「あはは、こわい部下だこと」

僕の心音を覚えてしまえ。片時もその音が離れなくなって、いつの日かその音が消えてしまったときは僕と一緒にその拍動をとめればいい



「鬼男くんの優しくて力強い心拍がね、好きなんだ。」








いつの日か迎える終焉に、君と終わるのならそれで、いい











*****
さあ、心臓と何回いったでしょう^^





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