*大学生くらいの設定










交わした唇の温度を覚えている。それを忘れる日が来ることはついぞなかった。










「なんだ豪炎寺」


手繰り寄せられた指がしっかりと絡ませられる


「いや、」

言葉を濁す豪炎寺の指がやけに熱い。何かを考えている時の熱さだ



「…」

問おうとして唇を開いたがかける言葉がなかった。肝心な時に役に立たない脳に苛立ちを覚えながらも繋いだ指に力を込めた。ぴくり、と豪炎寺の指が反応する



「なあ、鬼道。俺たちは、変わってしまった」

「ああ。そうだな」




なんだ。その話か。そう思った。もうずっと心に留まるやり場のない気持ちの話




サッカーが楽しかった。それは今も変わらない。サッカーは楽しい。だが俺たちはただサッカーだけをし続ける人生は用意されていなかった。豪炎寺には医者、俺には鬼道財閥を継ぐべき道があるからだ


いずれ来ることは判っていた。ただサッカーに全てを注いだあの熱い瞬間はいつか終わると。判っていたはずだった


だが大人になる事は、残酷だ。あの熱い想いは燻りやがて消える。そして残るのは回帰を望む未練がましいガキと完璧を望む大人のエゴだ。どちらにもなれない。どちらも棄てられない




それが、俺たちだった





「鬼道」
「ん、」



初めて手を繋いだのは中2の帰り道だった。指先にも心臓があるのかという程に脈打つ指がむずがゆくて恥ずかしかった。初めてキスをしたのは俺の部屋だった。ソファでの距離が近くて柄にもなくドキドキした。豪炎寺の指がゴーグルを外して頬を撫でた時には余りの緊張に目を閉じた。そしたら柔らかな豪炎寺の唇が触れて、それは思ったより熱くて、豪炎寺の匂いがして、きゅうと心臓が鳴った




あれからもう何度もキスをしたけれど、今も変わらず心臓は鳴く。変わらない。変わらないよ豪炎寺


「豪炎、寺。俺たちは変わらない」
「、…そうだな」
「だから、そんな顔をするな…っ」
「ああ、」



苦しい位にキスをする。息が続かなくても構わない。中学生だった俺たちには出来なかった大人のキス。けどあの頃より子供じみた感情を押しつけるキス。いつから言葉では言えなくなった?大事なことが伝えられなくなった?



もう俺たちは、大人に近づきすぎてしまったから






名残惜しむように啄んだキスを一つ。そして豪炎寺は立ち上がった



「じゃあな」
「ああ、またな」



扉が開くまで、いや、扉が閉じるまで我慢したかった。大人になったのだから。だけど無理だった。視界が滲んでゆく。情けなくて辛くてゆらゆらと揺れる


またな、なんて、来ないのはわかっている。ああどうして大人になると出来ない約束を欲しがるようになるんだ




大人になってしまったから触れた唇から知りたくないものに気付いてしまうのだな。そうだろう。だからもうあの頃のように居ることは出来ないのだろう?





けれど豪炎寺の熱い唇は残っている。もう二度とお前に言うことはなくても。この唇にある熱には嘘はつかない。中学生だった俺たちのままで。だから言おう。愛していると。ただ純粋に豪炎寺が好きだった、あの頃の俺のままで




指でなぞった唇の温度は変わらない。豪炎寺と俺の融けた温度。忘れない。きっと豪炎寺も忘れない。だからこの唇は一生繋がったままだ。それだけは、変わらない






end










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