あの人がそこにいるだけで自然と目が吸い寄せられる。勿論それは僕だけではなくて


あぁまた、そう思う僕は彼の半歩後ろで俯く


あのヘンテコな仮面がまず目立つのにそれ以上にそんな仮面が気にならなくなる程洗練されてかっこいいあの人に綺麗に着飾った女性達はメロメロなのだ。何てったってただ突っ立ってるだけなのにいちいち仕草がかっこいい。背も高いし筋肉も程良い。そしてあの鳥肌ものの声。世の女性の理想をクリアしすぎだ


言い寄る女性達はしきりに彼のご機嫌を窺う。優しい彼は女性を無下にしない。だから僕は半歩後ろで黙っている


ここで問題なのは僕がモテないという話ではない。そりゃあ可愛い女の子に言い寄られたいって思うのは男の性だしもてはやされたいという人並みの感情もある。だがそれ以上に問題なのは言い寄られる彼−ゴドーさん−に嫉妬しているということだ。ここで彼は僕のです!なんていう訳にもいかないから僕は引き下がる。口外したい訳ではないし許される恋愛じゃないから何もしないけれど彼の側に居ても助手かせいぜい先輩にくっついている若手にしかみえないのが悔しい。もう一端の男なのに子供みたいだと思うけれどゴドーさんのシャツの端を掴む。それに気づくゴドーさんが話を切り上げて帰るぜって言うのをわかっててやるのは汚い大人のエゴなのにね



だんまりしたままの帰り道。きっとゴドーさんはわかっている。だから黙り込む。ああこういうのがカッコ悪いんだな僕って思うけど仕方ない。だって僕は平凡な男だから。あなたに不釣り合いな自分に腹が立つ


約束していたから今日はゴドーさん家に上がり込む。むっつりとソファに腰掛けているとぽん、と頭にゴドーさんの手が乗せられた


「ご機嫌ナナメなコネコは何が不満なんだ?」
「……別になんでもないです」

こんなところが駄目な自分だとわかっている。でもゴドーさんを直視できない。ゴドーさんが悪い訳じゃあないってわかっているから尚更

「おいおい。次にそんなわかりやすい嘘ついたらゴドーブレンド、奢っちゃうぜ?」
「それは嫌だ」
「ならちゃんと俺をみろ。相手の目をみて話すのは基本だぜ」

ゆっくりと見上げればマスク越しに赤い目がこっちを見つめていた

「じゃあ一つだけ」

ぎゅうっと握りしめた拳が汗をかく


「なんで僕なんですか」



その言葉はどうやら予想外だったようで、ゴドーさんの目が見開かれた。そして一瞬の間の後、頭にコーヒーが注がれた


「わあっ!ちょっと何するんですか!?」
「アンタが馬鹿なこと言うからだぜ。何がなんで僕なんですか、だ」
「だって…ゴドーさんモテるのによりによって僕を選んだ理由がわからない」
「おい、まるほどう。アンタはコーヒーと緑茶の違いがわかるかい」
「は?わかりますよそれくらい」
「そういうことだ」
「あの…全然わからないんですけど」
「つまり俺はアンタしか選ばねえってことだ」

「っ…!」


顔が熱くなる。さらりとこういうことが言えるのがすごい。そしてときめく僕もすごい


「でも僕はゴドーさんみたいにかっこよくないしモテないしかといって可愛い訳でもないし…」
「クッ……アンタはだからコネコちゃんなんだ。気付かねえのかい?」
「何にですか?」
「絡み付く視線のことさ」


視線?


「視線ならいっつも浴びてますよ。ゴドーさんをみつめる熱い女性陣の視線をゴドーさんついでに」
「そんなんじゃねえ。腹を空かした狼の視線だ」
「…ゴドーさんから?」
「クッ………積極的なコネコちゃん、嫌いじゃないぜ?」
「どんな解釈ですか!…じゃあゴドーさんじゃないなら誰から?」
「か弱いコネコを狙ってる男達の視線だぜ。街中をアンタを連れて歩いてるとうざったい位まとわりついてくるモンだ」
「だからそれはゴドーさんに…んっ!」

その途端ゴドーさんの唇が僕の唇を塞いだ。しかもいきなりすぎて息を吸うのを忘れたのを後悔させるようなキスをだ


「ふ…ぅ、ちょっ…いきなりなに…」
「話は最後まで聞くモンだぜ。じゃないと可愛いコネコの唇…奪っちゃうぜ?」
(奪ってから言われても…)

「夜のそういう繁華街をアンタを連れて歩くとアンタの首筋とかに注がれてるぜ。獣の視線がな」
「嘘だ。だって僕別に人の目を引くとこなんて一つもないですって」
「純情なコネコちゃんは何も知らないのが可愛いが、ここまで来ると犯罪だぜ?」
「いやいやいや、犯罪って…そんな犯罪級のことなんて僕にあります?」
「クッ……!それをベッドの中じゃなくてここで言わせたいのかい?」
「ええええええ!そんなギリギリの線の話か!そんなこと言わないでいいです!」
「つまりアンタは自覚無しの危なっかしいコネコだってことだ」
「コネコじゃないですって…て言うかゴドーさんだって女の人に言い寄られまくってるじゃないですか!」
「妬いてるのかい?まるほどう」
「……うう…そうですよ!妬いてますよ!」




不覚にも勢いでうるっとしてしまった瞳にゴドーさんの褐色の指が添えられた。そうしたらなんだか制御がきかなくなって次々と涙が溢れてきた



「だって、だってゴドーさんはっかっこいいし、モテるし、それに比べて僕なんか…っこんなんだし、だからいつかゴドーさんに捨てられそうだし…っ!」

黙ってきいていたゴドーさんが呆れたように息を吐いた。完全に嫌な女のパターンな自分にまた涙が溢れた。情けない自分に愛想が尽きる。これじゃあゴドーさんだって愛想が尽きるよと思ってぎゅっと瞼を閉じた。するとゴドーさんの指が優しく瞼を押す



「で、アンタはさっきの俺の話を一つも聞いていなかったってことかい?」
「…?さっき?」
「俺はアンタがいいって言ったはずだぜ。それにアンタは知らずに視線を集めてるってこともな」



まだ納得していない僕の態度をみてゴドーさんはまた一つため息、そしてそっと唇を僕の額に当てた


「わかってねえようだから順番に教えてやる。まず額、目、鼻、口」
「ゴ、ド…さん」



ちゅっ、ちゅっ、とゴドーさんの唇が上から下まで隅々まで滑っていく。くすぐったくてでもなんだかドキドキして甘ったるい気持ちになった



「…足首、つま先、そして」


するりと僕のシャツをはだけさせ左胸の少し下、心臓のある場所に唇を押し当てた



「アンタ自身だ。わかったかい?俺はアンタの全てを愛してる。どこがとかどうしてとかいう問題じゃねえ。アンタ全て、だ」
「、ゴドーさん」



あまりに苦しくてゴドーさんに抱きつく。シャツを挟んだままでもわかるゴドーさんの心臓が僕のと混ざりあった




「で、アンタは?なるほどう」





そう、不敵に笑ったゴドーさんに唇を重ねる。あなたが心臓ごと愛してくれるなら僕はあなたを魂ごと愛しましょう





あなたに伝えたい気持ちは全て口付けにのせて






だから野暮ったい僕の言葉は忘れて愛し合おう?
















酸素に
のせた言葉

(融解してしまうような接吻を頂戴?)







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