「孫市」



そう、名を呼ぶ奴は意外と少ない。雑賀として俺を呼ぶことはあっても雑賀孫市という一人の人間の名を呼ぶのは傾きまくってるアイツと無二のダチのアイツと、そして何故か俺を口説き落としたコイツだけだ

もちろん今の呼び声はそんな物好きなガキんちょ様だ。何故ってそれはこんな雪ばかりが降る土地には俺とコイツしか居ないからだ



おかしい。間違いなくおかしい。こんないい男が何で同じ男(しかもガキだぜ?)に口説かれたんだか全く理解が出来ない。美女たちが泣くぜ。ついでに俺も泣く




「孫市、はやく来ぬか!」
「ハイハイ」
「遅いわ!わしが呼んだら音もなく現れて『…ここに』とか言えんのか!」
「アンタ一体俺の何を見てたんだ!?そういうのを望むなら忍に頼め。俺は謹んで実家に帰らせてもらいます」
「馬鹿め何を言っとる!最初からわしの横を離れなければ良い話じゃ!湯浴みも厠ももついて来い!」



愕然。駄目だ言葉が通じない。いや、大体最初からおかしかったんだ。口説き落とされてこの城に入ったはいいが俺に用意された着物は何か派手な朱の女物と漆塗りのかんざしとおまけに紅だった。あの瞬間の衝撃は忘れらんねぇ。どうしてあん時に逃げなかったんだ俺


「何を呆けておる。はようここに座れ」


ん!と政宗の真横を指した指通り胡座をかいて座る



「違うわ馬鹿め!正座でないと駄目に決まってるであろう!」
「はぁ…」



何なんだいきなり。まるで説教されるみたいだ。そう思ったらねね様に叱られるダチを思い出して少し楽しくなった。あーあん時は楽しかったなー的な意味で


政宗は、というと人の足をしげしげと眺めている。そうやって黙ってるとかなりキレーな顔をしてるのにな。女にだってきっとモテる。まあ人格破綻だから無理か



「良し」



そう、一言呟くと政宗は、一応俺の主になる殿様は、俺の柔らかくもない腿に寝転がった


「やはり孫市の膝枕は良いな」
「こんなおにーさんの膝で楽しいかぁ?痛くね?」


俺だったら御免だね。いや、というかふつーに女の膝枕がいいにきまってるだろ。なんも楽しくないし。なのに政宗サマときたらやけににやにやとしている。とうとう頭いかれちまったか…ご愁傷様だぜ。……けどそんな頭いかれたみたいににやける政宗をみて嬉しくなっちまう俺は何なんだろうな。全く笑えねぇ





「孫市、愛しておる」





政宗の伸ばした腕が俺の首を捉えて引き寄せた。こんな時体柔らかくて良かった、とか思えんのはなんか間違ってるか?

ガキの癖にいっちょまえなキスをしやがる。どこで覚えたんだか考えたが、ああ俺が教えたんだ




「まご、わしのものになれ」

このガキ特有の高い声が俺は別に嫌いじゃない。たまにキンキンと「馬鹿め!」とかのたまうが。けどいつか声変わりしたまだ想像もつかない青年の声で名を呼ばれる日が待ち遠しくて仕方ねぇ。きっと、ぞくぞくする



「もう、なってるぜ?」



あの日、戦場で出会った瞬間から俺はお前のモンだ。口説かれなくったってきっとあの目に惚れていた。もう堕ちていた。だから俺はもうアンタのモン



だけど首筋に触れる噛みつくような唇も髪留めを器用にはずす指先も俺のモンだ。こんないい男を虜にしたんだ。一生かけて償ってもらわなきゃ困る。だからアンタの一生を食らって生きるよ。この世で唯一アンタだけが俺の名を呼ぶ日が来るまで、な








幸せでありましょう
(心を撃ち落とされた鴉はもう空を飛べないのにね)










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