甘えるあの子




今日は委員会の当番日。かったるくて誰かに押し付けとった仕事も、あの子がいると思うと楽しみになる。


佐野さんはいつも何考えとるのか分からん。

何も考えてへんときもあるし、しっかり裏を読んでるときもある。だからおもろいんやなあ…思い通りにならんから。


今日はどんな一面を見せてくれるんやろ…と保健室に足を踏み入れると、ちょうど出ようとしていた男とぶつかった。




「あっ、忍足!良いときにきた!」


「おう、小野か。どないしたん?」


「俺これから先生呼んでくるからさ!とにかく佐野のこと頼んだ!!」


「は?」




何が、と聞き返す暇もなく、小野は走り去ってしまう。

そういやアイツ、いつも部活の用事でおらへんから委員会の仕事は同じクラスの佐野さんに任せっきりやったなあ…。


それにしても佐野さんのこと頼んだってどういう意味や?
首を傾げたとき、ベッドの奥の方から弱々しい声が聞こえてきた。




「…だれ…?」


「佐野さん?」




様子のおかしい佐野さんの声。一番奥のベッドカーテンを開けると、浅い呼吸を繰り返す彼女がいた。
顔色は見るからに悪く、小野が先生を呼びに行ったのもこのためだろう。




「あ…ゆーし……」


「どないしたん?具合悪いんか?」


「うー、ん……」




返事をするのも辛そうな様子に、どうしたらいいのか分からなくなる。いつもあっけらかんとしている佐野さんの姿は俺にとって衝撃的だった。




「今小野が先生呼びに行ったからな、もうちょい待ってな。」


「う、ん………」




もともと色白なのに、さらに白くなっている彼女の顔。熱でもあるんかと思って額に手を当ててみれば、その逆で、手のひらから伝わる熱の少なさに更に心配になった。


まるで、消えてしまいそう。



そんな時、俺の手のひらの上にひんやりとした佐野さんの手が重ねられた。




「ゆーし、のて、…あったか…くて…、きもちい…」


「………さよか。」




体温を求めて、俺の手に弱々しくすがる彼女は、まさしく子猫のようだった。



やっぱり彼女は読めへん。
庇護欲を煽られる姿………ゆるく体温を奪われていく手とは逆に、何故か胸が熱かった。