帰り道のあの子




部活が終わってさー帰ろうってときに佐野が正門から出て行くのを見かけた。そういや最近見かけねえなーと思ってたところだったから、少し走って佐野に声をかける。
すると相変わらず気の抜ける表情の佐野が振り返った。




「あ、がくと。」


「よっ。」


「部活帰り?おつかれー」


「おう!お前はこんな時間まで何やってんだよ?」


「わたしも今日は部活。同好会だけど。」




同好会か…そういや前に言ってたっけ。確かにこのゆるい佐野に部活っていうイメージはない。
ふと甘い香りが鼻を掠める。どうやら佐野から漂ってくるようだ。




「なんか食ってる?」


「あーケーキ焼いてきたから。」


「ケーキ?」


「そ。わたし調理同好会。」




意外だ。なんていうか……佐野と料理って結びつかない。
ほらほら〜と言って紙袋から綺麗にラッピングされたパウンドケーキを取り出す。綺麗な焼き色のそれはとてもおいしそうに見えた。




「え、お前混ぜる係とか?」


「ちょ、完全になめてるな!全行程わたし1人でやりましたけど。」


「ええ〜〜……。」




信じられない。

その心中が伝わったのか、佐野は紙袋からおもむろに別の袋を取り出し、先ほど見たのと同じケーキを俺の口につっこんだ。

マジで容赦ねえ…これが跡部や忍足くらいの身長なら届くこともないんだろうけど。



「どーだ、うまいだろ。」


「……やっぱお前オーブンのボタン押す係とかだろ。」


「何じゃそりゃ。」




だってすげーうまい。今まで調理実習のマフィンだの、差し入れのクッキーだの色んなの食ったけど、マジで売り物みてーだし。




「もうがくとにはやらない。」


「バカ、冗談だろー。なあ、もっとねえの?練習後で腹減ってんだよ。」


「ないよ。これからコニーのお家でお泊まりだから手土産に持って行くんだもん。」


「じゃあオレも混ざる。」


「くたばれ。」




あんなに上手いケーキ作れるくせに、「くたばれ」とか言いやがる。


……ま、そこが佐野のいいところなのかもな。