知っているあの子




偶然廊下で見かけた佐野に声をかけると、「あーあとべくんー」と口をもごもごさせながらこちらにやってきた。
佐野が近付くとなにか甘ったるい匂いがする。




「なに食ってんだ?」


「あめー」


「甘ったるい。」


「そりゃイチゴ味だもん。」




カラコロ、と口の中で飴を転がす佐野。
そういや前にこいつにもらった安っぽい飴も、やたら強い甘みと香料の味がしたな。




「なに、跡部くんも欲しいの?」


「いらねーよ。甘すぎるのは苦手だ。」


「でも跡部くんみたく24時間脳みそ動かしてるみたいな人は、たまにこういうバカ甘いの食べたほうがいいと思うよ。」




疲れとれるから。そう言って前と同じメーカーの飴をポケットから差し出す。


こいつはいつもそうだ。

あくまで俺の力は才能や素質だけではなく、それに伴う努力も存在することを知っている。
ほとんどが気づかないことを、佐野は当たり前のように言うから、差し出された手を取らずにはいられないのである。




「仕方ねーな。飴の礼に今日の昼にカフェテリアの新作を食わせてやるよ。」


「おおーなんていうわらしべ長者的な展開。跡部くん、ありがとう。」


「ったく…。」




佐野の何気ない言葉に救われてきたことだってある。がむしゃらになっている姿はあまり見せたくはないもんだ。だが努力を認めてくれるやつがいるだけで、それが救いとなる。


結局のところ、だから俺はこいつに弱いんだよな。