保健室の体温計 「しつれーします。」 油断してた。体育の授業で調子乗ってペース飛ばして長距離走ったら、なんか身体がだりぃ。 こんなか弱かったっけ俺…なんてぶつくさ言ってたら、同じクラスの滝にさっさと保健室行けって言われた。冷たい。 入学して一週間でさっそく保健室の世話になるとは思わなかった。 勢いよく扉を開けると、入学式の時に見た保健室の先生(50くらいの恰幅のいいおばさん)と、女子が1人。ネクタイが青いってことは同じ一年生か。 なんつーか普通の感じだけど、とりあえず小さい。椅子に座ってっけど、足ついてねーし。 「佐野さんちょっと待っててね。はい、あなたどうしたの?」 「あー長距離走ったらなんか身体だるいんですけど…」 「ちょっと顔色良くないわね。こっちで熱測ってみましょう。」 佐野と呼ばれた女子のすぐ脇に座らされ、体温計を渡される。体温計の先の金属部分がヒヤッとした。先生は何やら外に行ってしまった。 チラリと隣を見ると、長い睫毛が目に入った。よく見るとまあまあ可愛いかもしんない。俺より大分小さいのも珍しいし。 「なあ、具合わりぃの?」 「あ、はい。熱あるんで早退するんです。先生が今証明書取ってきてくれるんで…」 「あ、俺も一年だからタメ口でいいぜ。」 「ジャージ着てるから分かんなかった。何組?」 「C組。」 「あ、さっちんと同じだ。知ってる?田川さちよちゃん。」 「あーうちのクラスの委員長。お前はクラスどこ?」 「わたしG組。」 「マジ?宍戸と一緒じゃん。」 「宍戸亮くん?わたし隣の席だよ。」 そこで先生が戻ってきた。なんとなく惜しい感じがする。 もう少し喋ってたかったんだけど、佐野は先生から証明書をもらって帰ってしまう。保健室を出る瞬間、目が合って手を振ってくれた。 つられて手を振り返したら、はさんでいた体温計がポトリと落ちた。熱はなかった。 |