愛の形
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小学校に入れば,子どもの作り方ぐらい知る。
名賀朝陽ももちろん知っていたし,朝陽の年齢の割に父が若すぎることも悟っていた。
そして,父の年齢と母がいないことに対する周囲の口さがない噂も耳に入っていた。
だからといって,父に訊ねたことはない。
訊ねたら悪いというよりも,興味がなかった。
そんな朝陽も小学校を卒業するにあたり,気になったことがある。
父は恋したことがあるのかと。
「ねえ,樋山のおじさま」
「どうしたの」
葵くんたちはお昼寝していて,緒方のおじさまはのんびりと読書をしている。
「お父さんの初恋,知ってる?」
「え,恋したことあるの? ねえ,真司,聞いた?」
樋山のおじさまは興味津々といった様子を隠そうともせず,緒方のおじさまの本を取り上げた。
「何が」
「名賀って恋したことあるの?」
「ないだろうな」
緒方のおじさまは重々しく頷いていて,幼馴染であるこのおじさまが知らないなら,本当に知らないのだと思う。
「だいたいねえ,朝陽ちゃん」
樋山のおじさまがにやにやと笑う。
「おじちゃんたち,男子校だよお? 朝陽ちゃんが思うような,あまずっぱーい恋なんて,あるわけないでしょ?」
「それもそっかあ……」
緒方のおじさまが呆れた顔をしていて少し恥ずかしいけど,気になったものは仕方がない。
父が迎えにきて,その日の夕飯は緒方のおじさまが作っていた。
「朝陽ちゃんが,名賀の初恋に興味があるんだって」
樋山のおじさまが朝陽の質問を暴露した。
葵くんと薫くんは馬鹿馬鹿しいという顔をしているけど,茜ちゃんは目がきらきらしている。
ほらね,やっぱり。気になるでしょう?
「ちょっとおじさま,ひどい」