Dear White Vampire3


保健室の前までたどり着いた時、ネズミは迷わずノックをした。間髪を容れずに引き戸を開け放つ。
「紫苑? 着替えを持ってきたけれど、早退するか?」
何気ない感じを装って、ネズミは中にいるであろう人物に声をかけた。
保健室のベッドの一角がカーテンで仕切られていた。それがかすかに揺れる。中は見えない。
「ね、ネズミ!?」
上ずった紫苑の声が聞こえる。それだけでかなり慌てていることが分かる。



羅史がスマートにカーテンの影から出てきた。
「先生、紫苑の体調はどうですか? おれ、家まで送って行きますけれど」
ネズミはわざとらしいくらいに笑顔を作って見せる。羅史は相変わらず無表情だ。
「そう……では後はきみに任せるとするよ」
ネズミの肩にぽんと手を乗せて、羅史は保健室から出て行こうとした。
「随分と可愛らしいねずみだね」
すれ違いざま、小さな声で羅史は囁いた。
おそらくあのロボット小ねずみの存在は、この男に知られていたらしい。なかなか侮れない男だ。
「それはどうも」
ネズミも負けじと、余裕の笑みを返す。これくらいは想定内だ。



羅史が保健室から出ていくと、ネズミは真っ直ぐ紫苑がいるベッドへと向かった。
勢いよくカーテンを開け放つと、ベッドの上に呆然と座り込む紫苑がいた。
下半身はジャージを着ていたが、上半身は裸のままだった。それはまさに淫行にふけった後のようだった。
しかし、さっと状況確認したところ、最後まで致したということは無いようだ。
「ほら、制服」
ネズミは単調に、紫苑の制服を投げて寄越した。
「ネズミ……見てたの」
「見てたよ」
紫苑の顔色が真っ青になる。何か言おうとしているようだったが、うまく言葉を紡げずに唇を震わせただけだった。



「帰るぞ」
「……なんで、何も尋ねて来ないんだ……見てたんだろ」
紫苑の声が震える。
「見てたよ、それが?」
「ぼくはなんでネズミがそんなに普通にしていられるのか、分からない。話だって聞いてたんだろ」
「聞いてたよ、あんたと羅史は吸血鬼なんだって? あんたが病で死にそうになった時、羅史に吸血鬼にしてもらって生き存えたってことは理解した。少し、信じがたいけれど」
「そこまで知っててなんで……!」
「おれはあんたがなんでそんなに感傷的になっているのか、分からない」
「ぼくは本当にもう人間じゃないんだよ! 血を吸ってきみを殺せるんだ!」
「殺すつもりなのか?」
「そんな訳ない!」
「なら、いいだろ」
紫苑の顔にずい、と顔を近づけた。紫苑が目を見開く。
「血、吸えば? おれの。血吸っていないから、体調が悪いんだろ?」
「やめてくれ」
紫苑が顔を背ける。その仕草に少々カチンと来て、紫苑の頤を掴んで無理やりこちらに向かせた。
「食えよ」
「ネズミ……っそんなに近づいた、ら……だめ……」
「どうぞ? 召し上がれ、陛下」
ネズミが艶やかに笑むと、紫苑は頬を上気させた。
「も……我慢できない……」



紫苑の腕が伸ばされて、ネズミの背中に回る。
うっとりとした表情で、ネズミの首筋に唇を当てる。少なからず、ネズミは緊張した。
「我慢、してたのに……きみ、いい匂いがするんだもの」
「殺さない程度で頼むよ」
首筋に唇を当てたまま喋るので、くすぐったい。紫苑が舌を出して、ぺろりとネズミの肌を舐めた。
「きみがいけないんだからね」
紫苑はネズミの首筋に噛み付いた。痛みが走り、ネズミは思わず眉間に皺を寄せた。紫苑の表情は見えないが、ちゅうちゅうとネズミの首筋を夢中になって吸っている。
最初は痛みが強かったが、だんだんと快感に変わっていった。


――気持ちがいい。
全身が熱い。なんだこれは?

「……吸血鬼に噛まれると、一時的に性的興奮が高まるんだ」
紫苑は舌を伸ばして、ネズミの傷口を舐めている。
「あ、でも、ぼくがネズミに血を送り込まない限り、吸血鬼にはならないからね」
「ふぅん……」
正直、ネズミは今それどころではなかった。紫苑の話を半分も飲み込めていない。
下半身に熱が集まってしまって、どうしたものかと考えあぐねていた。
「ネズミ……」
耳元で紫苑が切ない声が上げると、ネズミはびくりと肩を震わせた。
「ネズミ……頼む……拒絶しないでくれ……」
紫苑はゆっくりと、ネズミの中心を服の上から摩っている。
「おい、紫苑……!」
「ネズミ、お願い」
紫苑の両目の紅玉は涙の膜が張っていた。そんな目で見つめられたら、ネズミ自身どうしたらいいのか分からない。




「さすが……慣れてるな」
ネズミが精一杯の皮肉を言うと、紫苑が涙目で睨んだ。
「そんなこと、言うな……ぁ、ン」

ネズミはベッドの縁に腰掛けていて、紫苑はネズミと向き合う形で彼の太ももの上に座っていた。
紫苑は自ら全裸となり、足を開いていた。慣れた手つきで己の後孔をほぐし、すっかりそそり立ったネズミのものを自分の中へと迎え入れた。
いわゆる、対面座位の形だ。

紫苑の身体は熱い。繋がっている部分から紫苑を感じて、今にも達してしまいそうだった。
紫苑も切なげに眉を寄せて、腰を緩やかに振っている。その度にくちゅり、と水音が響いた。
動かす度に、紫苑の勃起した陰茎もぷるぷると揺れた。ネズミの息遣いも荒くなる。
淫猥な光景に、夢かと疑ってしまう。



しかし、紫苑のこの行為に対する『慣れ』だけが、ネズミを苛立たせた。
「羅史と結構寝るの?」
嫌味の意味を込めて聞くと、紫苑はまたネズミの首筋に噛み付いた。今度は先ほどと反対側の場所だ。
「っつ……!」
「きみは野暮だ……! 自分だって初めてじゃあ無いくせに」

自分は羅史に嫉妬した。
まさか、あの紫苑が性経験あるとは思わなかった。
羅史と寝た経緯を知りたいと思う反面、知りたくないような気もする。どちらにしろ、激昂してしまいそうな自分がいた。
顔を上げた紫苑の唇に、そっと触れるだけのキスをする。ほのかに血の味が口腔内に広がった。



「……ぼく、死にたくなかったんだ」
「うん」
「だから……ぼく、吸血鬼になっても、生きたいって思ったんだよ」
「……うん」
「ネズミに、ネズミにまた会いたくて……! 死にきれなかった……」
震える紫苑の肩を抱きしめた。紫苑は痛い程に抱きすがってくる。


紫苑はネズミに再会したくて、吸血鬼になる道を選んだ。たとえ人間でなくても……



「ネズミ……気持ちいい?」
紫苑がネズミの上で肢体をくねらせる。普段の紫苑とはかけ離れた妖艶な姿で、激しく腰を動かしている。
「気持ちいいよ……」
「んっ……もっと、ア、きもちくなって……ァ、アッ!」
下からネズミも腰を突き上げてやる。面白いくらいに紫苑は喘いで跳ねた。
紫苑も充分感じている。
「あ、ずる、い……っ! ひゃ、ァ……」
「んっ……」
「ネズミ……全部頂戴……!」


抱き合いながら、二人はカーテンの中で達した。
紫苑の中に熱の残滓を注ぎ込みながら、ネズミは妙な幸福感に包まれていた。
ほかの生徒達が勉学に勤しんでいる中、自分たちは淫行にふけっていることに、一抹の背徳感も感じる。
紫苑の秘孔はネズミを離すまいと、ひくひく締め付けている。


幸せそうに微笑むと、紫苑はネズミの頬にキスをした。そのまま耳元で囁く。
「また……血、頂戴」


味を占めた吸血鬼は、もう欲望を抑えきれないだろう。



紫苑になら搾り取られてもいいかな、なんて考えているあたり、自分も相当紫苑に毒されているとネズミは独りごちた。



――おれ以外の奴の血を吸ったら、ちょっと許せそうにない。





END





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