溶けて広がるブールドネージュ3



「またお菓子食べているのか」
紫苑は屋上の隅っこで白いお菓子を口に入れていた。咀嚼しながら微笑まれる。
「久しぶり」
「そうだな」
紫苑の隣に腰を下ろす。すると、ピンクの可愛い包み紙に包まれたお菓子を差し出された。


「食べる?」
「なんていうお菓子?」
「ブールドネージュ」
紫苑は誇らしげに笑う。「きみの知らないお菓子だ」と言って笑う。1つだけつまんで、口へと運んだ。ほろほろ崩れて溶けるように、甘い味が舌の上を広がっていく。


「また幼馴染に貰ったのか」
「うん。きみの家から帰ったあと、大変だったんだからな。沙布に何度も説明を求められた」
「それは災難だ」
おれもくっくっと肩を震わせて笑う。

「……今日はどうしたんだ?どうして屋上に?」
「あんたに会いに来た」
「……嫌われたかと思っていたのに」
「おれが? あんたを?」
うん、と紫苑は気まずそうに視線を逸らした。そういえば最後に会った時は喧嘩別れみたいな状態だった。


紫苑の頤を持ち、半ば無理やりこちらに向けた。驚いた瞳を見つめながら、紫苑の唇に自分のそれを重ねた。ブールドネージュの甘い味がする。彼に触れるのは、久しぶりのように感じた。たった二週間が途方もなく長かった。

紫苑は抵抗をしない。それをいいことに舌を奥へと伸ばした。すると拙いながらも、紫苑も応えるように舌を絡めてくる。漏れる紫苑の吐息に欲情している自分がいた。

触れたい。もっと奥まで。


「んっ……ネズミ?」
唇を離すと、紫苑の唾液で濡れた紅い唇がいやらしく光っていた。
全てが愛しい。白銀に光る髪も、涙に濡れる紅い眼も、蛇が這ったような痣も、全てが。手放したくなくて、おれは紫苑を掻き抱いた。


「あんたが好きだ」
思わず口をついて出た。でも、本心だ。誰にも渡したくなんかない。
紫苑の身体がびくり、と震え身じろぎした。おれの顔を覗き込む。


「今……え? 幻聴?」
「何度でも言おうか。あんたが好きだよ。愛してる」
とたん、紫苑の顔がボッと音を立てるほど赤く染まる。痣までもがさらに赤みを増している。
「ど、どうしよう……!」
「何がさ」
「嬉しくて……今、きみにいっぱいキスしたい……!」
「していいよ」
おれの言葉を待たず、紫苑からキスの雨が降ってきた。キスの合間の笑顔がとてつもなく可愛かった。男に可愛い、なんておかしいかもしれないが。


「足りない」
紫苑の頭を掴み、今度はおれから深く口づけをした。
「ふっ……んっあ」
紫苑の声と潤んだ瞳が、欲情に揺れる。
「なあ、紫苑……したい」
「え? セックス?」
「あんたには情緒も何もあったもんじゃないな」
呆れて言う。
「こ、ここでするの?」
紫苑が慌てて、あたりを見回す。屋上には誰もいない。たぶん。



校庭からは部活に勤しむ、運動部の声がここまで聞こえる。背徳感と羞恥心が紫苑を悩ませているのだろう。
「あんたが嫌だって言うのなら、しない」
そう逃げ道を用意しつつ、前の膨らみを撫でる。向かい合わせになり、ゆっくり紫苑の制服のファスナーを下ろす。
「ネズミ……!」
「勃ってるな、あんたの」
「んっ……だめ、あっ……んんっ」
紫苑の反応し始めたものを取り出し、擦る。外気に触れ、身を震わせる。声を出さないように必死に口元を手で覆っている。いやらしい水音が溢れる。


「あんた、反応いいな。最近、抜いてなかった?」
「ふぁ……だって、んっ、や、でちゃう……あっあ……!」
紫苑が身体を震わせて達する瞬間、精子が飛び散らないように急いで口に含んだ。口に広がる苦みも気にせず、飲み下す。
「あっんん……はぁ、ネズミぃ……ごめ、……イッちゃった」
「紫苑……あんたの中に入れたい」

おれも興奮していた。紫苑がおれに好きだと言って、おれも紫苑が好きだと自覚すると、セックスが以前とはまるで別物のように感じた。好き合う者同士だと、こうも感じ方が違うものなのか。
「入れたいの?」
「うん」
「誰か来るかもしれないから、やだ」
でも、と紫苑は付け足す。痣が紅くなる。
「ぼくもきみと……したい。今すぐ」




「あぁっ……ひゃ、あっ、声、でちゃ、あっん……あ」
屋上の片隅で、おれは紫苑を貫いている。紫苑は身体を校舎の壁にあずけ、尻だけをこちらに向けている。いわゆる立ちバックだ。
紫苑は上半身だけ制服を着ていたが、下半身には何も身に着けていなかった。白い足には紅い蛇が這っており、とても色っぽい。背徳感が増す。細い腰を掴み、荒々しく揺さぶる。


ぱちゅん、ぱちゅん、と穿つ音が響き渡る。
「ふっ……はぁ、しおん、つらくない?」
「気持ちい、あっ……から、んっんっ……だいじょぶ。んあっ、ぼく、もう……!」
「イく? おれもイきそう……」
「あああああっ……」


乱れた呼吸を整える。
「紫苑? 大丈夫か?」
ぐちゅり、と音を立て、彼の中からおれのものを取り出す。
「ネズミ……」
紫苑は幸せそうに微笑んで、両手を伸ばしてきた。おれも応えるように両手を伸ばし、細い身体を抱きしめる。



強く、強く、決して離すまいと腕に力を込める。






「今度は夜明け前にいなくなるなよ、ネズミ」


おれは今、奇跡を抱きしめている。






END



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