聴覚2
バッツとスコールを探して走り回っている最中、どちらの陣営とも言えぬ少女を見つけたジタンはぱちくりと碧眼を瞬かせた。普段は聖域の奥深くか、ゴルベーザやジェクトの近くにいる事が多いと言っていたのに、珍しい。珍しいが、嬉しい事に変わりはない。その表情に喜色を滲ませ、声を上げた。

「ナナシ!」

しかし返答はない。そもそも反応がない。そういえば彼女は耳が聞こえないのだ、と思い出して、ジタンはナナシの眼前にひょいと飛び出した。少女の肩がぴくりと跳ねて、それからにっこりとジタンに笑みが向けられる。

「ジタン!」
「久しぶりだな。怪我とかしてねぇか?」
「……、…うん。だいじょぶ」

じっとジタンの口元を見ていたナナシがほんの少しの間を置いて、こっくりと頷く。それから舌足らずな調子で答え、ちょん、と首を傾げた。

「ジタン、元気?」
「そりゃもう元気元気。いやでも残念だな、のんびりデートできねーし」
「……珍しい」

大仰に冗談っぽく肩を竦めて見せたジタンに、ナナシはしぱしぱと瞬いた。本当に不思議そうにするその様子に、ジタンの口から吐息じみた笑い声が零れる。
珍しい、と来たか。確かに、会う度に声をかけては芝居がかった調子で口説いているから、間違いではない。

「ははっ。デートじゃないけど、先約があってさ。ごめんなー?」
「ん…バッツ、スコール、いないの? いつも、一緒」

質問と同時に、ジタンと合わせていた視線が再び彼の口元に移る。返答を待つナナシに一つ頷いて見せて、ジタンはちょっとしたジェスチャーも交えながら答えた。

「うん、ちょっとはぐれちまってさ。探してるんだ」
「………ジタン、迷子?」
「え、今の流れでオレが迷子になる?」
「……だって、ここ、カオスのとこ、近い」
「あ、あー。それでな。うん、まぁ間違ってねぇからいいんだけど」

バッツとはまた違った意味で正直なナナシの言葉に微苦笑し、ジタンは緩く頭を掻いた。確かに、物理的には勿論精神的にも、ついさっきまで迷子だった。精神面はあの美しい調和の女神のお陰でどうにか脱却できたが、物理的にはまだ。
ナナシは微かに表情を曇らせ、心配そうにジタンを見た。彼女の華奢な肩を軽く叩いたジタンはあっけらかんと笑って「大丈夫だよ」と言った。

「少しはぐれちまっただけだ」
「………」

しばし黙りこくったナナシが瞬きもせずにジタンの目を覗き込んだ。気を抜けば引き込まれてしまいそうなその視線を、ジタンはやはり瞬き少なく見返した。
ややあって、ぱちぱち、と何度か瞬いたナナシがこっくりと頷いた。それ以上の追求の言葉はなく、代わりにふわりとした笑みが返る。

「早く、みんな、みつかるといい、ね?」
「おう。で、お宝も見つけねぇとなぁ」
「……ふふ、がんばって、盗賊さん」
「おっ、レディが応援してくれるならいくらでも頑張っちゃうぜ」

にんまりと笑ったジタンに、笑みを深めたナナシは一つ大きく頷きを返した。




(話せて読唇できる夢主とそのお陰で夢主の聴覚がないなんて普段は気にも留めない周囲というのもありでは)



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