いないせかいで
「俺がいなくなったら、お前、どうする」

みかんの皮を剥くナナシにそう問うた。ナナシは平然とした顔で答えた。

「あんたと一緒に消える」
「………」

棒を持つ手が一瞬、ほんの少しだけ震えた。ナナシは妙な事(だと自分では思う)を訊いた俺にすかさず問いを投げ返してきた。

「そう言う朱史は、あたしがいなくなったらどうする?」

まさか同じ質問が来るとは思っていなかった―――とは言わない。質問に答える代わりに、同じ質問に対する相手の答えを知りたがる。こいつは、ナナシはそういう女だ。だから俺は、ナナシと同じように平然と答える。

「後追いぐらいはしてやるよ」

どうせ、影か解放されればそれに引きずられて俺は消えるんだ。だったらこの問答は、その時期が早いか遅いかだけの違いだと思う。

「そ」

短い相槌の後、ナナシはご丁寧に皮の下の白い綿まで取ったみかんを俺に寄越した。
それきり、会話はなくなった。



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