うどん、丼、スープ
店の扉が開いて、私は顔を上げて声をかけた。

「いらっしゃ…あ」
「何だよその顔、俺が来ちゃいけねーのか? ナナシ」

職業柄ほぼ反射的なものとなった一連の行動の先にいたのは、見知った男だった。その男ことラグナは私が言葉を切ってしまうと少しばかり顔を顰めた。イケメンなのにもったいない。

「別に駄目じゃないよ。ちょっとびっくりしただけ」
「客が来ていちいち驚く定食屋かよ」
「天下の死神様が来たら誰だって驚くでしょ」

からかうように言われたのが少し悔しい。私は肩を竦め、「仕込中」と書かれた看板を店の扉にかけた。

「いいのか? 閉めちまって」
「大丈夫、大丈夫。それで? ご飯食べに来たんでしょ、何食べる? 奢るよ」
「お、マジかよ、サンキュー。んじゃ天玉うどん大盛り」
「はいかしこまりましたー」

注文を受け、うどんの麺を鍋に入れる。茹でている間に他の具材を用意し、ついでに自分の賄いも作る事にした。鶏肉が多く余っている。よし、今日は焼鳥丼にしよう。そういえば、野菜スープも余っていた。一緒に頂こう。
ちゃっちゃと二人分の料理を作り終え、スープと一緒にラグナのいる席に運んだ。

「お待たせしました、天玉うどんです。こっちの野菜スープはおまけね」
「サンキュー」
「私も同席していい?」
「あぁ」

軽い調子で頷いたラグナの対面にある椅子を引き、そこに座って、ぱちん、と両手を合わせる。

「いただきます」
「いただきます」

二人一緒にそう言って箸を取った。ラグナがずるずると麺をすする音を聞きながら、私は私で焼鳥丼を食べる。うん、美味しい。

「んぐ…、うめぇな」
「ふふん。私が作ったんだから当然でしょ」

茶目っ気たっぷりに自画自賛などしてみる。ラグナは珍しく笑って、「自慢しやがった」と言った。

「何よー。美味しいかどうかわかんないって不安になりながら作った料理じゃ、この味は出せないんだからね」
「へいへい、悪かったよ」

苦笑と共にラグナの大きな手が伸びてきて、私の頭をわしわしと撫でた。一度だって言ってやった事はないけど、私はこの感触が結構好きだ。心地好いし。でもねラグナ。

「早く食べないと、冷める上に伸びちゃうよ」
「うお」

少しだけ慌てたように手を離して、ラグナは再び天玉うどんを食べ始めた。微笑ましいような名残惜しいような気持ちでそれを眺め、私もさっさと焼鳥丼を食べた。
ジン=キサラギさんがやってきて扉をぶち壊され、さっさと逃げたラグナを追って嵐のように去っていった彼の代わりに、後から来たノエルちゃんに修理代を請求しておいたのはこの後の話だ。



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