双子座
例えばの話、俺があの場にいたら何か変わっていただろうか。
俺はあの家の一員ではない。だからあいつらと一緒に行動する時間は限られる。血縁関係にあるあいつら自身でさえも離れて行動する事があるのだから、当然といえば当然だ。
だが、もし。もしも俺があの場にいれば、俺の大事な友人達は壊れる事がなかったのだろうか。

「…過ぎた事を考えてもしょーがないのにねぇ」
「あ?」
「ん」

獰猛な光を湛えた蒼い目でデッキを見ていた凌牙が顔を上げた。どうやら声に出ていたようだ。何でもないよ、と笑って首を横に振る。
凌牙は少しばかり訝しげな表情(という名の顰めっ面)を見せたが、すぐに顔を伏せてデッキの編集に戻った。
俺も少しデッキを弄ろう。そう思ってテーブルに放置してあったデッキケースとカードケースを取り、ぱらりとデッキを広げる。星の騎士団…セイクリッド。
頭の中で大雑把にデッキを編集する。最低限このカードは3枚入れよう、という感じ。大雑把なそのデッキをやはり大雑把に形にした後、カードの枚数を整えていく。段々とそのデッキが細かい形を成していく。
ふと、一枚のカードが視界に映った。セイクリッド・ポルクス、騎士団の双子座の片割れだ。手に取ってそれをぼんやりと眺める。

「…凌牙」

声をかける。カードの向こう側に僅かに見える凌牙は、顔を上げようともしないまま声を返した。

「何だ」
「WDCに出るのって復讐のため?」

ぴたりと凌牙の手が止まったのがカード越しに見えた。ポルクスを下ろし、デッキに入れるカード群に並べる。
凌牙の視線が痛いほどに突き刺さっている。「当たり前だろう」、余計な事を聞くなと言わんばかりの刺々しい声音でそう言われ、俺は双子座の片割れに視線を刺したまま吐息した。

「…そっか」

まぁそうだよねぇ。凌牙は璃緒をこれ以上ないほど大事にしていた。
そりゃあ、璃緒は勝気だし凌牙は素直じゃないから、喧嘩をする事だってある。むしろしょっちゅう喧嘩をしていたように思う。だけど、それでも神代の双子は仲が良かった。だから凌牙は復讐を決意した。
この双子を壊した相手が誰かという事はもう知っている。凌牙は何も言わなかったが、一度俺が手にした雑誌を見て―――正確にはその表紙を飾っていた男を見て―――嫌悪と憎悪の入り混じった顔を見せたから。凌牙は冷静だし何だかんだでポーカーフェイスも得意だが、殊に自分が大事だと認識したものに関すると感情的になる。要するに、わかりやすくなる。

(まぁ、でも、凌牙だって俺が気付いてる事ぐらいわかってるだろう)

それでも何も言ってこないのは凌牙なりの気遣いなのだろうか、俺まで巻き込まないようにと考えてくれているのだろうか。
都合よく考えながら、カードケースに入れてあるカードの中から光属性のサポートカードを探る。属性分けはしてあるが、目測を誤って隣に配置してある闇属性のカード群に指を突っ込んでいた。
指先を引っ込めるより前にその勢いのままに他のカードを押さえれば、その向こうにヴェルズ・カストルが見えた。
セイクリッドのデッキを編集している今は必要のないカードだが、俺はそれを摘み上げていた。
カストルはポルクスの双子の兄だ。イビリチュアとの戦闘で戦死し、ヴェルズとして蘇った。闇に魅入られた星の騎士。光と闇に分かれてしまった双子。いや、星だって闇がなければ存在しているとわからないのだから、この双子は完全に分かたれたとは言えないのだろうか。

(…双子、か)

俺はどうしたって、凌牙の気持ちを汲み取る事はできない。璃緒に怪我を負わせた相手に復讐するつもりもないし、そいつが凌牙を陥れていたとしても、やはり動くつもりになれない。
かといって璃緒の気持ちもわからない。自分の怪我が酷いってのに「大丈夫だから戦って来い」なんて言えるわけがない。多分俺なら誰かに傍にいてほしいと思う、俺は寂しがりだから。
溜息を吐きながらカストルをカードケースに戻し、編集しかけのデッキを眺める。光属性のサポートカードとセイクリッドのモンスターカードを見比べながら構築していく。
元々組んであったものである事もありメインのデッキはさっくりと完成した。エクストラデッキを眺める。セイクリッドのエクシーズはビーハイブ、オメガ、ヒアデス…切り札のプレアデスとトレミスM7。そしてそれ以外のエクシーズも少しは入れてある。ヒアデスは抜いておこう。ごめん。
完成したデッキをケースに入れ、使わないカードはそれ用のケースに戻そうとして…闇属性の部分を探る。見つけたのはヴェルズ・カストル。一枚抜き取る。次に光属性の部分から、3枚を越えてしまうためデッキに入れられないセイクリッド・ポルクスを摘み上げた。
2枚のカードを掌サイズのカードアルバムに差し込み、D・パッドとD・ゲイザーと愛車の鍵を手に立ち上がる。凌牙の視線が俺に向いた。

「…ちょっと出てくるよ」
「…あぁ」

追求しようともしないで凌牙は視線を剥がした。その目は獲物を探す、あるいは狙う時の鮫のようだ。
そういえば凌牙のあだ名は「シャーク」、鮫だったな、なんて思いながら、部屋を出た。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -