ぎぶみーむねまくら!
「ドロワさんドロワさん」
「何だ」
「抱きしめてくれ」

世間話でもするように、しかしタイミングとしてはこれ以上なく唐突に、わたしはそう言った。
案の定、ドロワさんは「はぁ?」と怪訝極まりない表情を浮かべてわたしを見た。

「いきなり何を言う」
「いやさドロワさんに抱きしめられたいなと思って」

平均的な女性より少し身長の高いドロワさんを、平均的な女性より随分身長の低いわたしが見上げる。
ドロワさんは溜息を吐いた。あーこれは無理かな、なんて思った直後、ふわりといい香りが広がって柔らかさに包まれた。

「こう、か」

どうやら本当にドロワさんに抱きしめてもらえているようだ。なんという恐悦至極。いや望んだのはわたしだが。
ところでわたしの顔に当たっているこれはつまりそのあれか。女性の象徴か。男性でもシリコンやら生理食塩水やらぶち込めば完璧なあれか。

「ドロワさんドロワさん」
「何だ。抱きしめてやっているだろう」
「うん、しかし少し要望があってだな」
「要望?」
「うん。わたしは反対側を向きたい」
「このままでは駄目なのか?」
「駄目ではないが少し都合が悪い」
「なんだそれは…まぁいい」

ゆるりとドロワさんの腕が緩まったので少しだけ身体を離す。うむ。やはりさっきわたしの顔にむにむにと当たっていたあれはあれのようだ。つまり、乳房。ドロワさんの胸でけーな。うらやましい。
見ているだけで眼福ではあるがそれではわたしはただの変態になってしまうため、もう手遅れのような気もするがくるりと反対側を向いてドロワさんに背中からもたれかかった。

「お願いします」
「ん」

再びドロワさんが抱きしめてくれる。わたしの後頭部には…うむ。ドロワさんの胸。柔らかい。至福だ。
でけーとは言ったがこういう事をするに当たって大きすぎる事はなく、無論小さすぎる事もない。柔らかい。高さなどは身長差のお陰でジャストフィット。
つまりわたしは何がやりたかったのかと言うとドロワさんの胸枕を体験したかったのだ。異論、反論、その他諸々は受け付けない。これは同性でありなおかつドロワさんと仲良くなったわたしにだけ許される特権だ。…なんて、そんな仰々しいものではないが。

「ドロワさんいい匂いだな」
「そうか?」
「うん。どんな香水を使っているんだ?」

この疚しい気持ちはドロワさん本人には決して知られたくないため、私はどうでもいい話題を振って少しでも長くドロワさんの胸枕を体験しようと努力をしてみた。
ゴーシュさんとカイトさんが通りかかってドロワさんが慌てて私から離れるまで、あと2分41秒。



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