ティータイム準備
壁掛け時計を見たら、そろそろシエナ姉様がお茶の準備を始める頃だった。
いつもなら僕は紅茶を淹れるぐらいしか手伝う事がないけど、今行けばもしかしたらもっとお手伝いできるかもしれない。そう思って、僕は部屋を出てキッチンに向かった。
予想通り、キッチンにはシエナ姉様がいた。鼻歌混じりにボウルの中身をかき混ぜている。

「シエナ姉様!」
「え?」

きょとんとした顔で振り返ったシエナ姉様は僕を見て、「あら」と頬を緩めた。穏やかなその笑顔が、僕は大好きだ。もちろん恋愛的な意味ではなくて、姉を慕うのと同じ感情だ。僕に実の姉はいないけど、きっと同じ感情のはず。

「V…どうしたの?」

かしゃん、とボウルを置いたシエナ姉様はゆるりと首を傾げた。僕は「あの」と一瞬口ごもった。お手伝いをしたいだけなのに、どうして緊張しているんだろう。

「いつもシエナ姉様ばかりにお茶の用意をお願いしていますし…お手伝いできないかなと思って」
「あら、まぁ」

シエナ姉様はぱちりと瞬いて、きょろり、キッチンカウンターに置いた物を見た。甘い香りを漂わせるボウルと色とりどりのフルーツ、キッチンペーパー、他にもいろいろある。
それらをひとしきり見た後、シエナ姉様は僕に視線を戻してゆったりと笑った。

「そうね。お願いしようかしら」
「はい! あの、何をすればいいですか?」
「じゃあ、まず果物を切ってくれるかしら。手はちゃんと洗ってね?」
「はい、わかってます」

よかった、今日はちゃんと手伝える。僕はそれだけで嬉しくなった。意気揚々と手を洗って、果物ナイフを手にフルーツをカットしていく。

「姉様、今日は何を作るんですか?」
「フルーツケーキよ。カスタードが少し余っているから、タルトも作るつもり」
「わあ、楽しみです!」

シエナ姉様の作るお菓子が好きな僕は自分が満面の笑みを浮かべるのを感じた。だって、姉様の料理―――特にお菓子の腕前たるや、そこらのコックなら裸足で逃げ出すぐらいだ。だから喜びの笑みは隠せなかった。

「ふふ…今日は久しぶりにWもお休みだから皆揃ってお茶にできるし、楽しみね」
「はいっ」

シエナ姉様の穏やかな笑顔に一つ頷いて、俄然お茶の時間が楽しみになった僕はいつもよりもう少し真剣に準備にとりかかった。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -