直列と並列
※5D's世界にトリップしています。




「…うーん」
「………」

アポリアは正面に座るシエナに聞こえないようにひっそりと溜息を吐いた。
もうかれこれ数十分、彼女がカードを手に思考しては首を傾げ、また別のカードを手にする光景を見続けている。

アーククレイドルの瓦礫の中にいたシエナを拾ったのはつい最近の事だ。
酷く怯えた様子で、アポリアが歩み寄れば華奢な身体が崩れるのではないかと思えるほど震えていたが、どうにか警戒を解いて拠点に連れてくる事に成功した。
見知らぬ人間、それも異性を招いた事には特に何の理由もなかった。強いて言えば、放置して死なれては困るとは思った。その場所を通るたびに死体を目にするなど御免被りたい。
何故こんな場所にいるのかと話を聞いてわかった事だが、彼女と自分達の知識にはズレがあった。
デュエルモンスターズが流行っている。これは共通していた。しかしシエナはアポリアやアンチノミーはおろか、デュエルモンスターズの研究をし尽くしたゾーンやパラドックスですら知らないという「エクシーズ召喚」に頼るという。
そのエクシーズ召喚について聞けば、変な顔をされた。そして帰ってきたのは、「エクシーズ召喚を知らないの?」という答えにならない言葉。逆に自分達の知識を話せば、今度はアポリア達の方が「シンクロ召喚を知らないだと?」と首を傾げる羽目になった。
そしてこのアーククレイドルに暮らす中でも知識人であるゾーンとパラドックスが揃って弾き出した答えは、「どうやらシエナは別の世界から来たらしい」というもの。俄かには信じがたい話だったが、時を越える術を持っている身としては信じる他になかった。
そんなシエナはこの世界のカードを見たいと言った。ゾーンやアンチノミーの方が忍耐強く付き合えるはずだが、何故かシエナはアポリアを指名した。そのくせアポリアに話しかける事はほとんどなく、気付けばそろそろ一時間が経過しようかという頃合になっている。

「はぁ…やっぱりよくわからないわ」

ひらり。シエナは白い枠組み、つまりシンクロモンスターのカードを揺らした。

「ねぇ、アポリア…このシンクロ召喚って何なの?」
「…モーメントの恩恵を受けて発展した召喚方法だ」

ようやく話を振られて多少は驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻してゆっくりとした口調で答える。しかしシエナは納得のいかない、というか理解のできていない表情を浮かべて首を傾げた。

「…ごめんなさい。その『モーメント』もわからないのだけれど、エネルギー源と取ればいいのかしら」
「それで合っているが…まさか、お前のいた世界にはモーメントが存在していないというのか?」
「存在しないとは断言できないけれど…少なくとも私は聞いたが事ないわね」

はぁ、と溜息を吐いたシエナはカード枠をなぞり、「ついでにね」と言葉を続ける。

「貴方達の言うD・ホイールやソリッドビジョンっていうのもよくわからないの」
「…ではシエナ、お前のいた世界ではどうやってデュエルをするのだ」

アポリアの疑問から生じたそんな言葉を受け、シエナはぱちくりと一度瞬いてから話し始めた。
D・パッドという端末をデュエルディスクにする事。そのデュエルディスクとD・ゲイザーという装置を使ってデュエルをする。その際にARビジョンというシステムとリンクさせ、デュエルをする者達や観戦する者以外にはデュエルの内容が見えないようにするという。
それだけでも充分と言えば充分な話だったが、彼女はARビジョンのシステムについても話し始めた。当然ながらその内容はデュエルから大きく外れており、ゾーンやパラドックスと違い科学者ではないアポリアの理解は及ばなかった。

「…これはデュエルの話ではないわね。ごめんなさい」

アポリアが相槌すら打たなくなった頃、シエナは口元に指を当てて眉を下げた。アポリアはあぁ、いや、と曖昧に声を零した。

「お前は科学者なのか? 随分と知識が豊富なようだが」
「違うわ。けれど、知識はそれなりに。…それより、アポリア」
「何だ」
「最初の質問に戻るわ。シンクロ召喚の事、教えてもらえないかしら。召喚方法だけでもいいから」

モーメントの事はゾーンにでも訊くわ、と彼女は言う。アポリアがシンクロ召喚を嫌っていると知っているためか、少しばかり歯切れ悪い。
実際に使うわけではないのだし説明ぐらいなら。とアポリアは思った。本来ならばそれすらも嫌ではあったが、長時間シエナに付き合ったせいか回路のどこかが麻痺しているのかもしれなかった。

「…いいだろう、だがお前もエクシーズ召喚について教えろ」
「いいわよ。…もしよければその後デュエルしましょう? これでも私、それなりに強いの」
「そんな大口を叩いていられるのも今のうちだ」
「うふふ。それは楽しみだわ」

にっこりと楽しそうに笑うシエナを見ながら、アポリアは投げ出されているカードを一枚手に取った。
さて、まずはチューナーから説明するべきだろうが、そこから質問されたらどう返そうか。



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