わからなくていいよ
「…すっきりした顔してますね」
「そうか?」

とぼけた様子で返しながら、しかし鬼柳は明らかに上機嫌になっていると自覚していた。痺れるように冷えた指先を隠すように拳を握り、ひく、と口元を蠢かせる。
じっとその様子を見ていたエルダがごく小さく溜息を吐いて、ぐいと鬼柳の胸倉を掴んで引き寄せた。ともすれば暴力的な恋人のそういった態度が、照れ隠しだったり拗ねている事の表れだったりするのだという事は、もう知っている。

「…嬉しそうです。顔緩みっぱなしです」
「はは」

思わず声に出して笑って、鬼柳はエルダの手を掴んで解いた。冷えた指先にエルダの手は熱いほどで、彼女がほんの少し肩を震わせたのが何とも面白かった。それでなくとも今の気分だ。箸が転がるだけで面白い。

「そりゃな。ジャックがオレを倒すぐらい、強くなったんだ。…いや、強くなったのは前から知ってたが…今、身をもってあいつの強さを知った。嬉しいさ」
「…よくわかりません」

ぐっと眉を寄せ、エルダは鬼柳の手を振り払った。そのままぶすっと腕組みをする彼女は、どう見ても、拗ねている。

「負けたら悔しいものじゃないんですか?」
「勿論悔しいさ。…あぁ、でも、それ以上に、やっぱり嬉しいんだ」
「…ずるいなぁ」

エルダが腕を解いてかくりと肩を落とす。

「何がだ?」
「だって、私にはわからないところで、貴方達は繋がってます。…WRGPの時だって、鬼柳さんは『会う必要はない』って言ってました。本当にそれでいいんだって、心から納得してました。…私にはそういうのが全然わからないのに、貴方達はそうやって、全部理解してしまう。…ずるいです、凄く、ずるい」
「ほーぉ」

なるほど。拗ねているのではなく、彼女は嫉妬しているのだ。ジャックにだけではなく、きっと、遊星やクロウにも。
飄々としているようで本質は激情的なこの恋人にそういう面があるのを知っていて、だから鬼柳は彼女の頭をくしゃくしゃと撫で回した。

「妬くなよ」
「無茶言わないで下さい。ああああやっぱ言っていいんでもうちょっと優しく撫でて下さい」
「どっちだよ」

軽く笑いながら、言われたとおり乱雑な手つきを和らげた。エルダがむっつりと拗ねた表情はそのままに猫のように目を細めるのが見える。

「まぁ、わからなくていいさ」

意地が悪いようだが、この感情についてはわからなくていい。わからせるつもりもない。納得のいかない顔をするエルダには申し訳ないと思うが、そうするのが一番いいような気もしている。

「…男の人ってよくわかりませんね」
「はは。単純だし面倒なんだよ。オレも、あいつらも」
「そういうもんですか」
「そういうもん」

さて、あからさまに眉を顰めたエルダの機嫌を取るにはどうするべきだろうか。



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