サイコパワー発覚
「あにさま…っ!!」

いきなりどすんと腰の辺りに衝撃を感じ、ジャックは視線を下げた。そこにはエレスがいた。愛らしい義妹は泣きそうな顔をしていて、ジャックは思わず眉を寄せた。

「どうした」
「…あの、ね…アキに、デュエル、教えてもらってたの」

あぁ、それでか。華奢な左腕にデュエルディスクが装着されているのが不思議だったが、疑問が氷解する。
何かを教えるのに向いた性格ではないと自覚しているジャックが「デュエルを教えてほしい」とせがむエレスに「遊星か十六夜にでも教われ」と言った事は記憶に新しい。クロウを候補に挙げなかったのは、配達だなんだと忙しくしている彼への、ジャックなりの気遣いでもある。
そしてエレスはどうやらアキにデュエルを教わっているらしく、ここ数日は基本的なルールを反復する姿が何度となく見られた。
デュエルディスクを着けているという事は、相応の段階に辿り着いたようだが―――何故、彼女はこんな顔をしている。

「それがどうした? …まさかとは思うが、途中で逃げ出したわけではあるまいな」
「そんな事しないもんっ」

むっとした表情でエレスが抗議の声を上げ、それならいい、とジャックが頷くと同時に彼女は再び眉尻を下げた。

「何があった」
「……あの…」
「早く言え」

まごついた様子に、不覚にも僅かな苛立ちを覚えた。ジャックは気の長い方ではない。案の定、エレスはびくりと肩を震わせ、おどおどとしながらデュエルディスクを起動させた。

「えっと……ぐ、剣闘獣…ベストロウリィ、召喚…!」

小さな手がモンスターゾーンにカードを置く。モーメントが反応する特有の音が辺りに響き、緑を基調とした鎧に身を包んだ鳥獣―――剣闘獣ベストロウリィが現れた。エレスのお気に入りだという剣闘獣ガイザレスを融合召喚するのに必要なカードだ。

「こいつがどうした」
「…さわれるの」
「何を…」

小さな唇から紡がれた言葉に、馬鹿な、と返しかけ、すぐに口を噤む。「何を馬鹿な」で済ませるには、ジャックには実体験が多すぎた。アキの時も、ダークシグナーとの戦いの時も、同じ事象を体験している。
しかし、だからといって素直に信じる事ができるわけでもない。ジャックは両目を軽く細め、エレスを見下ろした。

「本当か?」
「うん…」

ジャックと目を合わせたままでエレスが頷いたのを確認し、ベストロウリィに向き直る。
彼(ジャックは「彼」だと認識している)は二人の様子を不思議なものでも見るような目で見ている。
エレスは再び小さな手でジャックのコートを握りながら、義兄を見上げた。

「…あにさま、ベストロウリィに触ってみて」
「………」

ジャックがエレスに一瞥をくれると、彼女はやはり真直ぐにジャックを見ていた。
緩く吐息し、彼はベストロウリィの身を包んでいる鎧に手を伸ばした。するとどうだ。金属特有の、硬質だとわかる冷ややかな感触が確かに伝わってくる。
僅かに目を見開いて義妹を再び見下ろすと、エレスは眉根を寄せてディスクからカードを外していた。すぐに、ベストロウリィの姿が失せる。

「…あにさま、私…おかしいよね」
「おかしくなどない」

ジャックは沈んだ表情を見せたエレスに即答した。え、と泣きそうな顔を上げた義妹の小さな身体を片手で抱き上げ、手近な椅子を引き寄せるとそこに座った。
色素の薄い紫の眸をまあるく見開いてジャックの顔を覗き込むエレス。ジャックも彼女から視線を逸らさず、いいか、と切り出した。

「十六夜にもお前と同じ力がある。ダークシグナーの連中と戦った時も、モンスターの攻撃は実体化していた。今更エレスが同じ事をしでかしたところで、おかしくもなんともない」
「………」
「少なくとも、俺にとってはな。だがあいつらの事だ、どうせ俺と同じ事を言うに決まっている」

そこまで言って、励ましや気遣いといったものが得意ではないジャックはふてぶてしく両目を閉じた。
エレスはそんな義兄の表情をまじまじと見て、ぱっちりと一度瞬き、ぎゅ、と彼の胸元にしがみついた。

「デュエルしてて…怪我…させちゃったら、どうしよう…」
「お前は俺の妹だろう。自分の力を制御できなくてどうする」

小さな身体を支えるように背中に手を回してやり、とすん、一度だけ軽く叩く。
その感触に安堵を憶えたエレスはジャックのコートを控えめに掴んだ。



(ありがとう、あにさま)
(礼を言う暇があれば力の制御に努めるんだな)
(…うん)



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