強がり戦士の休息
「トシキは強いけど強がりよね」
「…あ?」

言われた事の意味がわからなかった。櫂は秀麗な柳眉を僅かに歪めるようにして眼前の少女を見つめ、首を傾げた。

「何の事だ」
「今、しんどいでしょう。頭がぼんやりするぐらいは」
「………」

ぴっ、と彼女のデッキの軸―――聖樹を使って指され、櫂はいよいよもって顔を顰めた。
彼女の言っている事は間違いではないのだ。どころか、櫂の体調をこれ以上なく的確に表している。
櫂の無言をどう取ったのか、少女は聖樹を戻したデッキをケースに入れ、真正面からじぃっと櫂の瞳を見据えた。

「トシキは強いわ。でも、そういうところは、強がりだわ」
「別に、強がりじゃない」
「いいえ、強がりよ。弱った時に誰かに頼らないのは、それは強さではなくてただの強がりよ」
「これぐらい、不調の内にも入らない。それだけの事だ」
「さっきからずぅっと、その子を眺めて微動だにしなかったのに? それはいつもの事だった?」

その子、と少女の白い指先が指したのは、櫂が握り締めたままの、ドラゴニック・オーバーロード―――その進化系の、「終焉」を冠するドラゴンだ。
ち、と口の中で舌打ちして、櫂はそのカードをデッキの中に差し込み、まとめてケースに入れてテーブルの上に置いた。
悔しい事に、彼女の言質は何も間違っていないのだ。櫂の体調がよければ、カードテキストが頭に入ってこない上にそのカードと上手く噛み合うカードさえ思いつかない、などという情けない状態にはならない。それがたった一枚のカードを見つめたままそんな状態に陥ってしまったのは…つまり、彼の体調が悪い、この一点に尽きる。
付き合いがそれなりに長く、かつあれでなかなか洞察力の鋭い三和でさえ気付けない櫂の不調を、この少女は易々と見抜く。

「…おい」
「ん」
「寝る。膝を貸せ」
「えぇ、どうぞ」

高さの調節のつもりだろうか。それまでぺたりとへたり込むような座り方をしていた彼女は片側に脚を流すようにして座り直し、ぽん、と招くように柔らかな腿を叩いた。仏頂面を携えたままの櫂はその膝に頭を乗せ、目を閉じた。
たったこれだけで、頭の中で渦巻いていたどろりとした澱が幾許かは失せるのだから、思ったより症状は軽いらしかった。
不調を見抜かれた、とはいえ元々隠しているわけではない。ただ櫂自身がこの不調に慣れすぎて、誰かに言う必要を感じていないだけの事だった。しかし、それも彼女にしてみれば「強がり」なのだろう。
ゆっくりと髪を梳く指先の感触を頭に感じながら、櫂はうとうとと眠りに就いた。






(肌が異様に白い+眠っている描写が多い+細い=虚弱体質…という安直な発想から。肌が弱いとかも考えていましたが今回はこれだけ)



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