その身を焦がす
絶対的な力を持つ彼に、どれほど焦がれたかわからない。
彼が相手を捻じ伏せる姿を見れば私の心は明確に熱を孕んだし、戦う事がなければ残念と思ったし、もし負けでもしようものならこのまま発狂してしまうのではないかと思うほど落ち込んだ。
例えば―――例えば私が炎だったら、傍にいられたか。駄目だ、それでは彼の姿を見る事ができない。彼に背を向けていなければ、敵を破壊できない。それでは意味がない。
では、力のある竜だったらどうだろう。少しは頼ってもらえただろうか。これも駄目だ、彼はきっと私が竜であっても頼ってはくれない。私の力が意味を成さないほど、彼は強い。
つまるところ私は彼の傍にいる価値のない存在なのだ。それを友人に相談したら「それは考えすぎ」だとか言われたが、どう考えても考えすぎであるわけがない。彼の力というのはそれほど圧倒的で、そこに私の干渉する余地などあろうはずもないのだ。だからこそ私は彼に惹かれた。

「櫂、ファイトして」
「…またお前か。三和にでも頼んだらどうなんだ」
「櫂がいい」
「はぁ…」

呆れたような表情をしながらもちゃんとデッキを取り出す辺り、周りから見れば律儀な男に見えるのかもしれないが、実際はそうではない。いや、確かに律儀な面もあるが、今回のこれはそうではない。無愛想で不器用なこの友人は、ただ単に強い相手とファイトしたいだけなのだ。そして幸運な事に、私には「強い」と思わせるだけの実力があっただけなのだ。
その話を聞いた時は「戦闘狂なんか漫画やアニメで充分だ」とか思っていたが、彼との繋がりを保つためにこうして幾度も勝負を挑む私も、今では立派な「戦闘狂」に含まれるのかもしれない。ただ、強ければ相手は誰でも、というスタンスではないだけで。

「スタンドアップ、ヴァンガード」
「スタンドアップ、ザ・ヴァンガード」

ファイトが淡々と始まる。私はいつも後攻だ。これはこの友人とファイトする時の暗黙の了解だ。私が先攻であっても、相手はそのデメリットを簡単に飛び越えて私を追い込む実力の持ち主だが、そういう問題でもない。
モーションフィギュアシステムはここにはないから、私達はイメージの中でユニット達の動きをなぞる。まだ、私の心は穏やかだ。凪いでいるとすら言える。まだ、まだ、まだ。もう少し。
ものの数分で5ターン目になり、先攻がグレード3を呼べるようになった。そして予想通り、グレード3のモンスターが―――現れる。

「ライド・ザ・ヴァンガード―――ドラゴニック・オーバーロード!」
「ッ―――!!」

戦慄。恐怖。―――歓喜。
オーバーロード! オーバーロード!! 紅く雄々しい体躯と薄黄色の膜のような翼と金の双眸、嗚呼、嗚呼、どれもこれもが美しい!! 恐ろしい!!
どうしようもなく唇が歪むのを感じた。指先が凍りそうだ。ふ、と唇から息を零し、ゆっくりと笑みを象る。
今の私の手札にガードできるカードは―――1枚。しかもガードしても意味がない。ギリギリで攻撃が通ってしまう。
嗚呼、でも彼に―――オーバーロードに焼き殺されるのなら、それでも構わない。
カウンターブラストしたオーバーロードは、私のイメージの中で私の場のリアガードを、ヴァンガードを、私自身を、体躯と同じく紅い炎で焼き尽くしていた。



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