あおく呑まれる
※微えろとがっつりえろの中間ぐらいです。





堅物そうな外見をしているしその印象に違わず普段の立ち居振る舞いは結構な堅物であるのに、我らが団長は時々幼い少年のように底意地の悪い一面を見せる。
頭の回転や知識の量は未熟な賢者や軍師より良好、剣の腕前は上流騎士を軽くあしらうほど脅威的、魔力はエルフの魔術師と並んでも遜色はなく、そういった高い実力に驕る事のない謙虚さと優しさとストイックさを持った、思慮深い男。恐らくそれが彼―――青炎騎士団の長たるパーシヴァルに対する、私とアグロヴァル以外の者が向ける印象だ。
何かもう、そういった印象を向ける人達に今のこの状況を見せてやった方がいいんじゃないだろうかと、パーシヴァルに唇に吸い付かれながらぼんやりと思った。
唇に吸い付かれている、というのはおかしいか。そんな生易しいものではない。ずるりと私の口内に入り込んだ舌はざらりと戯れるように歯列を撫でてくすぐり、思わず開いた歯の隙間から無遠慮に侵入してはからかうような動きで私の舌をつついた。つつくだけで、それ以上はない。
元はといえばアグロヴァルから預かった、ブラスター・ブレードに関するなけなしの資料を届けにパーシヴァルの私室に来たはずなのに、どうしてこうなった、なんて。そんな事を思っていたのも最初のうち、今ではそれなりに乗り気になっている私が思う事なんて一つだ。

「……ッ…」

その、一つしかない思う事、を正直に言おう。じれったい。とてもじれったい。騎士の身分を持っていようが、時代が時代ゆえに慎み深く生きろと育てられていようが、私にだって性的な欲求というのは人並みには存在している。相手が恋仲、それもこの数ヶ月多忙を極めていて言葉を交わすのも稀だったとあればそれは尚の事で、まぁその、何だ、もっとしてほしいと思ってしまう。だが、先も言ったが私は慎み深く生きろと育てられたのだ。これで自分から強請るような事をするのは些か、否、大いに恥ずかしい。のだが、パーシヴァルはそのままひょいと顔を離してしまった。離したとはいえ吐息が触れ合うような至近距離、思わず目を開けて睨むと、酷く愉快そうな表情の彼と視線が合った。

「…何か不満がありそうだな?」
「……、…」

わかっていて言っている。確信がある。何故なら今のパーシヴァルは滅多に見せない笑顔を見せている。それは時折部下に見せるような柔らかいものではなく、悪戯小僧がそのまま身体だけ大人になったようなものだ。

「…貴方にはないの?」
「俺はお前に触れられればそれで」

そう言いながらパーシヴァルは私の顎を指先でつっと持ち上げた。くっくっと楽しそうに喉の奥を鳴らしているのが非常に気に食わない。面白くない。彼ばかりが余裕綽々なのは、気に障る。

「だとしたら貴方、よっぽど欲求が薄いのね」
「そういう印象で通っているのはお前もよく知っているだろう」

知っている。よく知っている。この態度とその印象のギャップに悩んだのも記憶に新しい。ついでにいえば、そういうのは印象の問題だけであって実際の彼にもやはり人並みかそれより多いぐらいの欲求があるのも、彼がそれを押し殺す強固な理性を持っているのも、その理性を私をからかう方向性に情け容赦なく向けるのも、よくよく知っている。

「私は私でそういう風に育てられたわ」
「ほう。そう言う割には先ほどから物欲しそうな顔をしているな」
「…っ……もう」

ああ言えばこう言う。売り言葉に買い言葉。きっと彼に何を言っても、こんな風にのらくらと切り返されてしまうのだろう。顔立ちと外面だけが精悍で、内面は全然全くそんな事はないなんて、一種の詐欺ではないだろうか。
顎を持ち上げたままのパーシヴァルの指先をやんわりと振り払って、両手を彼の首に絡めた。面白そうに琥珀色の目を細めるのが、やっぱり気に食わない。ぐいと伸び上がって目を閉じながら自分の唇を彼のそれに押し付け、二、三度パーシヴァルの唇を食んでから挑発的に半開きにされたその口内に舌を入れた。それがいけなかった。
舌先が触れるかどうかというところでパーシヴァルに腰と後頭部を掬われ、舌を思い切り絡められた。突然の事で硬直していたら舌の裏側をぞろりと舐められ、電流じみたものが背筋をびりびりと駆けていった。

「っ…!!」

まずい、と離れようとしたがずるずると彼の胸元に移動させた手はどうにも力が入らず縋ったようにしか見えなかっただろうし、いつの間にやら私の上衣の隙間に入り込んだ体温の低い手が下に着た長衣越しに背を撫で、腰を撫で、そのくすぐったい刺激にふるふると足が震え、私は立っているのもやっとの状態にさせられていた。私が舌を入れてからほんの一秒ほどの出来事である。

「ん、ぅ…っふ…!」

ちゅるんと私の口内に無遠慮に舌が入り込む。つい、と私の下顎をなぞってから、そいつは上顎に触れた。また、電流じみたもの。身体が震えた。力が入らない。
これはどう考えても私に合わせてはいないだろう。男女共通だという、所謂性感帯を立て続けに刺激しているのは、嫌がらせだか彼自身が楽しむためだかに違いない。あるいは両方か。あぁもう、私は彼のこういうところが苦手だ。結局こうして好き勝手されてしまうし、何より―――乗せられてしまうというか、強請らせられてしまうというか、そうなるから。
ぺち、と肩口を弱く叩いて、ようやく唇が離れた。つぅ、と出て行ったパーシヴァルの舌を追って私の舌まで露出した、恥ずかしい。慌てて引っ込めるとまたおかしそうに目を細められて、面白くない気分になった。

「っ、も…本当に、印象、だけじゃないの…」
「ほう。…まだ足りないと見える」
「やっ、ぁ…!」

生暖かい舌に首筋を舐められた。思わず零れた甘ったるい声を誤魔化そうとして口元を手で覆ったが、それも肉刺だらけの手に捉えられた。騎士とはいえ力の抜けきった女の腕だ。彼は器用に片手で私の両手首をまとめ、空いた片手で私の上衣と長衣を脱がしにかかった。
これは流石にまずい。恋仲だし互いに人並みかそれ以上の性欲を持っているのだから、そういう事に発展したって何ら不思議はない。ないのだが、まずい。

「ちょっ、と、待ちなさいパーシヴァル…!」
「ん?」
「ひゃっ! …貴方、まだ…っ、仕事があるでしょう!」

するんと無骨な手が背中を撫でる。男娼のような官能的な仕草。いや、私は男娼を買った事はおろか見た事だってない、というか、パーシヴァル以外の人との経験なんぞないのだが。とにかくその仕草は私の身体をいっそう火照らせた。それでも事に及ぶのはまずいと拒否の意を示す。
涼しい顔をしているパーシヴァルは、端正な面貌に愉快そうな表情を貼り付けた。俗に言う、イイ笑顔、というやつだ。勿論これは褒め言葉…ではない。

「あぁ、あったな。向こう一週間分のものが」
「…はい?」
「その中で今日済ませるべきものはとうに終えている」
「な、なっ…! 貴方、ここのところ忙しいって…!」
「事実だ。いや、だった、と言うべきか。昨日には一区切りついていたが、昨日はお前が塞がっていただろう」

しれっと答えられて返事に瀕した。あぁ、そうだ、そういえば昨日はパーシヴァルは少し穏やかな表情をしていたが、一方で私はとても忙しかった。なるほど食い違ったわけだ。
―――などとのんびり考えている間にもするすると衣を剥がれていく。気付けば帯は床に落とされ上衣と長衣は肩からずり落とされ、まともに私の身体を覆っているのは下衣だけになっていた。これはまずい。

「せめて夜まで待って! お願いだから!!」
「無理だな。それにお前も充分盛っているだろう。何か問題があるのか?」
「さ、かっ…!!」

その綺麗な顔でそんな下品な言葉を言うんじゃない。と言いたいところだった。実際には言えなかった。性欲は人並み以上、羞恥心も人並み以上。じれったいなどど思っていたのは事実だが、白昼堂々身体を見られるのはとても恥ずかしい。品のない言葉を聞くのもとても恥ずかしい。そしてそれらを指摘するのはもっともっと恥ずかしい。いくら彼の指摘が間違っていないとしても、だ。何度でも主張しよう、恥ずかしいものは恥ずかしい。
せめてもの抵抗にと後退ろうとして、半歩ほども動かさないうちに半端に落ちた長衣の裾に引っかかって滑った。幸いにして転ぶ事はなく、しかし私の両手を引いたパーシヴァルの腕にがっちりと腰をホールドされて、これは結果としては非常によろしくない。よろしくない。密着度は上がったしパーシヴァルはいっそう楽しそうだし離れようにも力は入らないしそもそもパーシヴァルに私を離す気など欠片もない。まずい。流される。いけない。

「だ、いたい、私がその…っ、そういう事をしたいかどうかなんて、わからないでしょう!」

どうにかこうにか言葉を捻り出して腕の中からパーシヴァルを睨む。嘘だ。彼は私が乗り気かそうじゃないかなんてすぐに見抜く。元々観察眼の鋭い男だし、自分が楽しいと思った事象に対してはそれは突き抜けたものになる。…自分で言っておいて何だが、つまり私は彼に楽しまれている。遊ばれていると言い置いてもいいかもしれない。
心外だ、と笑ったパーシヴァルの手が私の手首を解放し、長衣を床に落とした。ぱさ、という布にしては重苦しい音がやけに耳につく。あああもうやめていただきたい。いややめないでほしい。ああでもやめてほしい、やめてほしくない。恥ずかしい。あぁでも。
何だかいろいろと堂々巡りに考える私は百面相をしていたのだろうか、はらりと下衣の前合わせの紐だけを解いたパーシヴァルは今日一番の楽しそうな笑顔を見せたかと思うと私を抱え上げた。慌てて合わせ目を保護した直後、ばふ、とベッドに横たえられる。そしてそこに覆い被さる、毛筋一本に至るまで乱れのないパーシヴァル。

「…性的な快楽信号は背骨を通るのだそうだ」
「は……、…ひゃんっ!?」

下衣の合わせ目、太股までを覆うそこに手を入れられ、内腿を擦られた。大袈裟に反応して、背中が、跳ねる。そしてそれを見たパーシヴァルはくつりと喉の奥で笑って、慈しむように私の髪を掬って口付けた。

「つまり背を反らせるのは無意識に快楽を求める者、というわけだ」
「な、んっ…」

髪が落とされ、ぱくり。そんな擬音がつきそうな調子で唇を食まれ、軽く口内をさらわれた。ずる、と些か淫靡な音を伴って離れた唇同士が、銀糸で繋がって、すぐに切れた。

「…性的に興奮すると唾液が粘性を帯びるという話も聞く。まぁ、こちらは俺も興奮しているから今の行為では確かめようがないが」
「…っは……ぁ、で、何が…言いたいの…」
「大人しく俺に抱かれろ」

今度は反論どころか声を発する間もなく貪るような口付けを頂いた。さっきまでのような、あんなものでも手加減していたらしい。呼吸さえできない。抵抗なんか、以ての外だ。下衣が完全に剥がれ、口吸いの合間に身体をまさぐられる感触に断続的に震える頃合に、私は観念してパーシヴァルの首に腕を回した。
あぁもう。堅物なんかじゃない。謙虚でもない。ストイックが聞いて呆れる。何故私はそんな彼に惹かれたのだろう。そんなしょうもない疑問は悦楽の渦に飲まれて消えた。





(夢主の長衣はケープ+ローブっぽい構造で下衣は襦袢っぽいものです。曖昧)



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