蒼き過渡
※レオミサ描写あり。
※そのくせ近親相姦。




「石田ナオキって、なるかみ使いの彼よね」

電話を切ると同時に双子の姉からかけられた声に、レオンは静かに頷いた。

「特訓してくれ、と」
「…いいの?」
「本来なら断るべきだろうな」

小さく溜息を吐き、掌に納まるような端末をテーブルに置く。ナナシは小さく笑って、レオンの手を軽く握った。

「断れなかったのよね?」

―――あの人を放っておけないから。
繋がった手から、真っ直ぐな視線を寄越す彼女の瞳から、そんな声が聞こえた気がした。軽く片眉を上げてしばし考え、ややあって苦く笑みを貼り付ける。

「…甘いと思うだろう。一度決めた事をこうも容易く曲げてしまうなど」

レオンが零した自虐的な言葉に、しかしナナシは首を横に振って否定の意を示す。

「それだけ一族以外の事も想えるようになったのよ。前みたいに手段を選ばずにいたレオンより、ずっと素敵」

まるで満天の星空を映す水面を見るように彼女が微笑むから、レオンは何も言えなくなってしまった。同時に、敵わない、と思う。年は同じなのに、時折見せる行動はとてもあどけないのに、何故だかナナシはレオンより更に大人びて見えた。
そんな彼女が手を放し、一転してきらきらと瞳を輝かせた。何か違う質問が来そうだと身構えれば、予想と違わず「それより」とナナシは首を傾げた。

「彼の他にも誰か来るの?」
「あぁ。…櫂トシキ、三和タイシ、戸倉ミサキ、葛城カムイ…覚えているか?」
「えぇ、勿論」
「あいつらが揃って来るらしい」
「まあ! 本当?」

ぱちん、と両手を合わせたナナシは頬を紅潮させ、喜色満面の笑みを見せた。

「ふふ、それならしばらくの食材を買っておく? それともジリアンとシャーリーンに、毎日魚や貝を獲ってもらおうかしら?」
「…ナナシ、忘れるな。あいつらは旅行や観光で来るわけでは…」
「わかっているわ。でも、せっかくだからきちんとおもてなししないと。美味しい食事はお腹だけじゃなくて心も満たすのよ」
「その余裕があいつらにあればいいがな」
「あら? その風を吹かせるのが、レオンの頼まれた事でしょう? ふふ、ミサキと…トシキまで来るのなら、余計に張り切らないと」

レオンの溜息など耳に入らない様子で、ナナシはうっとりと上機嫌に目を細めた。恋する乙女そのものといった表情が気に食わない。舌打ちしそうになるのを堪えた。
ナナシは櫂、レオンはミサキ。それぞれの恋人がやって来るのは僥倖だ。それがどんな理由だとしても、この絶海の孤島に住んでいたのではなかなか会えない相手だから、尚更に。

「…櫂トシキが来るのが、そんなに嬉しいか」
「勿論。私達に助けを求めるぐらいだからきっととても弱っているでしょうけれど、それでも嬉しいわ。レオンだって、ミサキが来るのは嬉しいでしょう?」
「………」

指先で弱く端末を弾いて答えを誤魔化す。らしくない態度が肯定の証だと知っているナナシは楽しそうに微笑み、それからほんの少し表情を和らげた。

「―――私をトシキにとられるのがそんなに嫌?」
「っ…ナナシ!」

声を荒げて姉を睨めば、ナナシはくつくつと楽しそうに笑ってすいと水のように身を退いた。半歩ほどの距離が妙に遠いものに思えて、面白くない。

「わかりやすいわね。でもねレオン、私も同じ気持ちよ」

―――レオンをミサキにとられるのは嫌。
言葉にされなかったはずの声を聞いて、レオンはいよいよもって顔を顰めた。やんわりと微笑んだナナシが別人のように見える。
レオンは開いたままの距離を詰めて成長しきっていない手でも余るようなナナシの細い手首を掴み、その身体を引き寄せた。微かに強張った姉の、女性らしく丸みを帯びつつある顔を両手で挟む。

「…それなら、一生俺の傍にいればいい」
「…それができれば苦労しないのにね」

硬く笑みを見せ、ナナシはレオンの首に両手を回した。そのまま互いに手を引き合えば、自然と顔が近づいた。そうしてどちらからともなく唇を食む。
もっと幼い頃はそんな事はなかったのに、成長期の最中にある今では徐々に体格の差が出て始めていた。レオンの節々は骨張り始め、ナナシは柔らかく丸みを帯び始めている。差などなかった身長は、今やレオンの方が高く、ナナシは少しばかり背伸びをしなくてはいけなかった。
ほう、と小さく吐息しながら離れて、何事もなかったかのように元の距離をとった二人は視線を交錯させた。レオンは不機嫌に顔を顰め、ナナシはゆったりと微笑む。

「でも、それを含めても私はやっぱりトシキが好きよ。レオンは違うの? ミサキの事、大事じゃない?」
「…そんな事あるわけがないだろう」
「うん。それじゃ、やっぱりちゃんとお出迎えしないとね? ジリアンとシャーリーンといろいろ話し合ってくるわ!」

にっこりと無邪気に笑ったナナシがぱたぱたと部屋を出て行った。きっと、彼らがいる間の部屋の事や食事の事を従者達と話し合うのだろう。そういった事をほぼ義務として捉えてしまうレオンに役目はほとんどないだろう。
せめてデッキの調整ぐらいはしておくかと、レオンはずらりとテーブルにカードを並べた。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -