はじめまして
「もし。貴殿はドルベ殿か?」

好奇に満ちた声で話しかけられ、私はその声の主を振り返った。弓兵部隊のそれよりも遥かに装甲の薄い軽鎧やそれを纏うしなやかな体躯、この辺りでは見慣れない形状の弓を肩に通したその人物は、声音と同じく好奇に満ちた目をして私を真っ直ぐ見据えていた。
最近突出した戦果を上げるようになった私は、こういった視線を受けてなくなった。同僚でさえ私には頭を垂れるようになった。それが私の名を知っていて、初対面の者とあらば、尚の事。だからその相手の態度に、少しばかり面食らった。

「……、…あぁ、そうだが」
「あぁ、よかった、合っていた! 私はアルコルという。先日、こちらに雇われた傭兵でな。貴殿の武勇をよく耳にするから一度お会いしたいと思っていた。お会いできて光栄だ。どうぞよしなに」
「あ、ぁ、よろしく」

べらべらと貯水池の門を開けたように話すアルコルと名乗った女性は、「それにしても」と言いながらずいと顔を近付けてきた。ぎょっとした私は半歩ほど下がってしまう。彼女は怒るでもなく、じろじろと無遠慮に私を具に観察し始めた。

「んー…思ったより頼りない体格だな」
「……は?」
「いや、端正な顔で、灰色の髪と目だとは聞いていたんだ。この城にその特徴を持った者が貴殿しかおられなかったからドルベ殿だと判断したわけだが、少し自信がなかった。何せ一騎当千の実力を持つと謳われる御仁だ、隆々とした身体をお持ちだろうと勝手に思っていたのでな」

畳み掛けるような調子で語るアルコルに、私は口を噤まざるを得ない。よく口の回る女性だ。
呆気に取られた私の様子は、しかし彼女には別な意味に見えたらしい。アルコルは不意に喋るのをやめ、それから苦笑して頬を掻いた。

「あー…すまないな。傭兵、それも弓を扱う者にこうまで馴れ馴れしくされるのはお嫌だったか?」

あぁ、そういえば―――鎧や剣を用意する金がないとか、弓ならば製作が比較的容易だとか、様々な要因があるが、弓を扱う者には身分の低い者が多い。という事は彼女も元は農民や商人といった、所謂平民に当たる人物なのだろうか。
とはいえ、私は特に不快感を抱かなかった。首を横に振る。

「少し驚いただけだ…ここ数年は君ほど無遠慮に接してくる者がいなかったからな」
「ん? …あぁ、英雄に不躾な態度を取れぬと、つまりそういう事か」
「あぁ、そんなところだ」
「なるほどなぁ。ドルベ殿はどうされたい? 私にもそういう風に接してほしいか?」
「君が楽なようにしてくれればそれでいい」
「楽なように、か。今以上に無遠慮な態度になるが、それでも?」
「むしろそれぐらいの方が嬉しいな」

元々堅苦しいのは好かない。彼女のように竹を割ったような性格が相手であれば尚の事、不自然な距離を置かれるのは困る、というか嫌だ。
アルコルは私の返答にからりと屈託なく笑い、「そうか」と頷いた。

「それなら私も楽だ。…では改めてよろしく、ドルベ」
「こちらこそ。アルコル」

笑みを返し、差し出された手を握る。
アルコルの手は女性らしく細いものだったが、弓を引いているせいだろうか、思ったよりも硬かった。




(夢主の弓については追々。ちゃんと考えてあります。)
(中世あたりで弓を扱う者の身分が低かったのは事実のようです。)



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