れっつとーく!
「…ねぇ、ナナシちゃん…」
「………」

僕はとても困っていた。目の前の可愛い女の子、ナナシちゃんが僕の事を全力で無視するからだ。嫌われるような事はした覚えがないのに、どうしてだろう。考えても答えは出ない。
遊星やクロウ、お兄さんのジャックがいればまだ会話ぐらいはしてくれるんだけどなぁ。三人ともプラクティスに出かけていて、アキさんや龍亞や龍可はまだデュエルアカデミアにいる時間だから、必然的に僕とナナシちゃんしかここにはいない。

「ナナシちゃん」
「………」

ナナシちゃんはつまらなさそうに、不機嫌を隠そうともしないで自分のデュエルディスクを弄っていた。デュエルの話題を振るのはもう試した。結果は惨敗、綺麗に無視された。どんなデッキを使うのか、そもそもデュエルが好きなのか、それさえ聞く事ができなかった。…参ったなぁ。
プログラミングは遊星がいないとできないし、僕はデッキを持っていないからその調整もできないし、三人がプラクティスに出かけているという事はD・ホイールの調整だってできないし、カップラーメンを勝手に食べるとジャックに怒られるし、何もできない。かといってこのままでいるのは気まずすぎる。どうしよう?

「……!」
(…お?)

D・ホイールの駆動音が聞こえて、ナナシちゃんが微かに反応した。でもそれは一瞬の事で、すぐに落胆したように視線を落としてデュエルディスクを弄り始めた。駆動音はもう聞こえない。…これは、もしかして。
ある事に思い至った僕は、彼女と知り合ってから何度目かの挑戦―――会話を試みた。

「…ねぇ、ナナシちゃん、D・ホイールは好きなのかい?」
「………」
「その、例えば、ジャックのホイール・オブ・フォーチュンとか」
「!」

ぴくり。また反応があった。まだ答えてはくれないけど、これは効果がありそうだ。もう少し根気強く、話しかけてみよう。

「僕はホイール・オブ・フォーチュンが好きだなぁ。遊星号やブラック・バードもかっこいいけど、ホイール・オブ・フォーチュンは珍しい形だし、元の性能もいいし」
「………」
「ジャックからも大事にされているしね。初めて会った時なんて、僕、彼に突き飛ばされたんだよ? 面白いD・ホイールだったからつい整備しちゃった僕も悪いんだけど―――って」

言葉の途中で影が差して、視線を上げる。ナナシちゃんが立っていた。僕の背が高いからか、彼女の背が低いからか、ほんの少し見上げる程度の状態だ。
でも僕は固まった。何故かって? ナナシちゃんが、怒った時のジャックと同じ顔をしていたからだ。血の繋がりはないって聞いたけど、やっぱり似てるなぁ―――

「ブルーノの―――」

目の前で、ナナシちゃんの細い腕が振り上げられた。

「馬鹿あああああああああ!!!!」
「わあぁぁ!?」

そして避ける暇もなく、僕の顔面に振り下ろされたのは―――小さいせいで威力満載の、拳だった。
情けなく倒れた僕の鼻から血が零れ、ゾラさんに「うるさいよ!」と怒鳴られ、タイミングよくプラクティスから戻ってきた遊星達(主にジャック)に何があったのかと詰め寄られ、ナナシちゃんにしがみつかれたジャックに「ナナシを怒らせるとは何のつもりだ!」と怒鳴られるのは、この直後の事で。
ナナシちゃんの不機嫌の理由が、自分ではなかなか触らせてもらえないホイール・オブ・フォーチュンを僕があっさりと(しかも無断で)触ってしまった事による嫉妬だったと知るのは、翌日の事だった。




***


エル様リクエストの「王者義妹設定でブルーノ夢」です。義妹ちゃんのやきもち。気付かないブルーノと愉快な仲間達。
よく遊びに来ていただいており、義妹シリーズで和んでくださったとの事で。恐悦至極です。義妹シリーズ作ってよかった。書き手冥利に尽きます。
応援の言葉とリクエストありがとうございました。マイペースもいいところではございますが、今後ともよろしくお願いします。



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