悪しき神々の末路
氷結界の最強の龍、トリシューラ。伝説上のそれを生きて見られるとは思っていなかった。噂通り―――否、それ以上に美しく、そして恐ろしい。
トリシューラは我ら魔轟神を喰らい、引き裂き、踏み潰し、蹂躙する。薄氷色の体躯、深海色の首や尾、三対の金目。その凶暴な姿は確かに恐ろしい、それ以上に、芸術性さえ見えるほどに、美しい。
私はここで死ぬ。それは逃れようのない事実だろう。死への恐怖は存在しなかった。レヴュアタンに連れられてここまでずるずるとやってきたが、ジュラックとの長期戦の末に一族の一部を壊滅させられ、ネオフレムベルの発生という不測の事態が起き、それでも尚攻撃をやめようとしないレヴュアタンに従い戦術を組み立て、正直に言えば疲弊していた。そも、疲れがなかったとしても私にトリシューラに歯向かえる実力はない。逃げ切る術もない。
トリシューラが咆哮を上げた。大気を、地面を大きく震わせる。私の髪をぞろりと跳ね上げる。呼応するように、グングニールとブリューナクの咆哮が聞こえた。別の場所であの二体も暴れているのだろうか。だとしたら私だけではなく、全ての魔轟神がここで潰える事だろう。
ふと。トリシューラの向かう先に、赤と金の姿が見えた。あぁ、あれは、私の絶対神だ。レヴュアタンだ。私より先に息を引き取ってしまった。このままだとあの身体はトリシューラに踏み潰されてしまうだろうか。上手く働こうとしない思考を、無理矢理に巡らせる。そうしながら運動能力にも魔力にも恵まれなかった己を必死で動かし、見慣れたその体躯に駆ける。
まずレヴュアタンの身体を持って逃げる事はできない。私にその力はない。ではレヴュアタンの身体を救う方法はあるか。ない。周囲に動ける魔轟神は、私しかいない。他の者達はもう動けない。ではどうするのが正解か。決まっている。私は魔轟神。我欲に忠実である事を唯一の理念とする種族だ。
トリシューラが私に気付いた。咆哮。びりびりと振動が伝わる。転びそうになったがどうにか堪え、ひたすらにレヴュアタンを目指す。トリシューラが目的を私に変える。中央ではなく横の首が私に伸びてきた。私ごときに中央の首を使う必要がないとでも言うつもりか。事実だから反論しないが。トリシューラの首に捕らわれる寸前、レヴュアタンの身体を抱きしめる事ができた。顔だけで振り返れば、レヴュアタンの身体ごと私を喰らおうと大きく口を開けたトリシューラの顔。非力なりに強くレヴュアタンの身体を抱きしめ、真っ直ぐにトリシューラを見据える。
今、私の中にある我欲。それはレヴュアタンと同じ末路を辿る事と、かの氷龍を最期まで見つめる事。これなら両方果たせる。あわよくばレヴュアタンの鎧と、あとは私が申し訳程度に身に着けた装甲でこの氷龍が死ねばいい。思慕のような畏怖のような憧憬じみた感情を抱きはしたが、トリシューラは私の最愛の主を殺した者だ。死んでしまえばいい。
ギロチンのように瞼を落とした次の瞬間、私とレヴュアタンはばくりとトリシューラに喰らわれた。



***


蚕様リクエストの「デュエルターミナルの話」です。キャラはお任せとの事だったので偏愛だけでトリシューラ、それとトリシューラが解放された理由である魔轟神、その中でも管理人が一番好きなレヴュアタンで書かせて頂きました。
レヴュアタンがどういった末路を迎えたのか、そもそも死亡したのか名言されていない…はず、ですが、トリシューラは全世界の魔轟神を殲滅したらしいので恐らく生きてはいないだろうなぁと思ってこんな話に。カードでまともに戦えばトリシューラが負けるとか言っちゃいけません。
それでは蚕様、リクエストありがとうございました。



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