でもそんな事どうでもいい
アリト様は、少し変わられた。本当はとても変わられたと言いたいところだけれど、ご自身は何も変わっていないと仰るから、きっと私が思うほどには変わられていないのだろう。だから、「少し」と称しておく。
以前のアリト様は、無邪気で陽気で活発で、溌剌としていて。人間界の言葉を借りれば「太陽のような」、そんな明るさをお持ちの人だった。
それが、今は少し影のある性格になられた。輝かんばかりだった笑みは陰を含み、弾むようだったお声は不気味に落ち着いていて、性格に引きずられたかのように、その外貌も変わってしまわれた。近寄りがたいほどの狂気を孕んだ、今のアリト様。
そんなアリト様の事を今でもお慕いしている私は、順応力が高いのか、それとも「アリト」という名を持った誰かであれば誰でも愛してしまうのか。是非とも前者であってほしい、と、鼻梁に柔らかな感触を受けながら思った。

「あ、アリト…さ、ま」
「ちょっと黙れ…」

低い声で、吐息を吹き込むような調子で言われ、ぴくりと肩が震えた。素直に口を噤むと、翠緑の目を細めて嫣然と笑ったアリト様は私の唇にご自身のそれを重ねた。甘美に過ぎる、感触が、する。
啄ばむようにぱくりぱくりと何度か私の唇を食みながら、アリト様はぐいと私の腰を引き寄せた。至近距離に感じるアリト様の体温に肌が粟立つ。と同時に、つ、とくちびるだけが離れて、アリト様は至近距離のまま微かに濡れた唇を開いた。

「…口開けろ」
「え、あ……んぅ…」

するりと口腔に滑り込んできた生暖かい舌に身体が震えた。嫌悪などではなく、快楽で。と同時に羞恥に見舞われ、顔に血が集まるのを感じた。こうしてアリト様に愛されるのは何も初めてではないのだけれど、私はいつもとても恥ずかしい思いをしてしまう。
私は陰気で消極的で、おまけにミザエル様に鬱陶しく思われてしまうほど気弱で、ベクター様に玩具のように扱われてしまうほどどん臭くて、ドルベ様やギラグ様には「戦わなくていい」と言われてしまうほど弱い。明るく積極的で勝気で行動力があって、何よりも強くていらっしゃるアリト様とは何もかもが正反対なのだ。
今のアリト様があの時のままの性格ではないとしても、やはり釣り合わない気がして―――否、全く釣り合わないと、その事がとても恥ずかしいと、思ってしまう。せめてこの卑屈な性格だけでも、どうにかしたい。
考え事をしているのがバレたらしく、舌と唇が解放されて翠緑の目に睨まれた。拗ねたようなこの表情だけは以前とお変わりなくて、以前と同じ申し訳なさとほんの少しの安堵を覚える。

「…俺に集中しろよ」
「ぁ…申し訳、ありませ…ん…」

慌てて謝ると、呆れたように髪を梳かれた。…これも、以前と同じ行動だ。困ったような苦笑が欠けているだけで。そして、やはり以前のように、溜息を零したそのくちびるが指先で掬い上げた一房に口付けを落として下さった。私の髪はお世辞にも綺麗だとは言えないけれど、アリト様はそんな私の髪を好きだと言って下さった。今のアリト様もそうなのだろうか。だとしたら、やはりアリト様はちっとも変わっておられないのかもしれない。
髪から離れて耳朶を掠める唇の感触の心地良さに、身を捩った。




***


さち様リクエストのもう一つ、「アリトにひたすら愛される夢」です。遅くなって申し訳ありませんでした。
愛されるというと何となくキスばかりが思い浮ぶ管理人です。なのでその欲求に忠実に書いてみました。そして再登場アリトならそれぐらい書けるかなと思ったので捻り出しました。二人ともほとんど喋っていません。すみません。
蛇足というか余談というか、夢主が受けたキスの意味について。鼻梁は愛玩、唇は愛情、髪は思慕、耳は誘惑。です。
更に蛇足。タイトルはアリトが変わったか変わっていないかに対するアリト自身と夢主の感情。だと思います。
それではさち様、リクエストありがとうございました。



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