対象変更。
ダインの採掘や輸送のあれこれに関する書類とにらめっこしている京介に抱きついてみた。細いくせに体幹がしっかりしている京介は少しだけぐらついたけれど、それは私が急に抱きついて驚いたからであって、決して京介がへたっているわけではないのだ。

「…ナナシ、どうした?」

書類から視線をはがした京介が小首を傾げて私の顔を覗き込んだ。少し前まで鼻っ面まで隠してしまいそうなほどの長さだった前髪は、今は目元まで切ってある。その前髪の下から覗く金の両目に真っ直ぐ見据えられて、私は小さく唇の端を上げた。

「ちょっと甘えたいんですー」
「…しょうがねぇ奴だな」

ふっと笑って、京介は私の頭を撫でた。髪を梳いたり、頬を撫でたり、また頭を撫でたり。ゆったりとした仕草でそうされると、凄く心地いい。
けれど少しくすぐったいものだから、思わず目を細めて笑った。京介の手が離れていく。

「もうちょっと撫でてよ」
「くすぐったいんだろう?」
「ほっぺ撫でられるのはくすぐったいよ。だから頭撫でて」
「やれやれ…ちょっと待ってろ」

呆れたように笑って、京介は私の頭をぽんと撫でた後、書類の整理を再開した。私が顔を出した時点でほとんどの書類が消費されていたから、数分もしないうちに書類は全て机の隅に追いやられた。

「終わった?」
「あぁ。ほらナナシ、おいで」

そう言ってかたりと椅子を引いた京介が軽く両手を広げる。私は満面の笑みで京介に抱きついた。しっかりと抱きとめられて、頭をゆったりと撫でられる。気持ちいい。

「んふふー」
「ご機嫌だな」
「そりゃあね」

好きな人に抱きしめてもらえて、頭を撫でてもらえて、ご機嫌にならないわけがない。ぐりぐりと京介の胸元に顔を押し付けながら笑いを零す。
京介は面倒臭がったり嫌がったりしないで受け入れてくれる。そしてゆっくりと髪を梳くような仕草で、時々ぽんぽんと小さい子供にそうするような仕草で、私の頭を撫でてくれる。
幸せだなぁ、と思うと、笑みが深くなるのが自分でもわかった。

「京介、京介、大好き」
「…ふ、オレもナナシが好きだぜ」

耳に心地良い声で笑った京介が少しだけ身体を離して、私の額にやんわりとキスしてくれた。嬉しいなぁ、と緩んだ頬にも、ふわり。今度はくちびるをぱくりと食まれた。
デュエルしている時の狂的な表情とは正反対のその表情が、私は大好きだ。…デュエルしてる時の京介だって、そりゃあ好きだけど。私だけに見せる柔らかい表情が何よりも好き。
幸せだなぁ、なんて思ってる間に唇が離れて、今度は私からマーカーの走る京介の頬に自分の唇を押し当てた。そしたらくすぐったそうに京介が首を竦めたから、ぎゅーっと抱きついて頬を摺り寄せた。うーん、幸せ。

「何だ、今日はやけに甘えるじゃねぇか」
「京介が甘やかしてくれるから、ね」
「いつも甘やかしてるつもりなんだがなぁ…」
「いつもは仕事ばっかりしてるもん」

拗ねたように唇を尖らせれば、京介は「はいはい」と苦笑してあやすように私の頭を撫でてくれる。
とはいえ、私は本当に拗ねているわけではなくて、まぁその、ちょっと寂しいだけだ。京介が書類にばかり向かったり、時々デュエルをしに出て行ったり、しているのが。
京介がその辺りをどう汲み取っているかはわからないけれど、これに懲りてもうちょっと私に構ってくれるようになったらいいな、ぐらいは思う。

「ところでよ、ナナシ」
「なーにー?」
「胸当たってるのはわざとか」
「―――」

ついでにいえば、こういう変態なところももうちょっと直ればいいのにと思う。
まぁ無言のまま鼻の下を伸ばすよりはマシか、とも思うけど、気に入らないのは事実だったから背中に回した手で背骨が浮いてるんじゃないかってぐらい薄い肉を抓っておいた。



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