ダブルジャンキー
空から飛来する斬撃。左右に放電機能付きのビット。ごく単純に避けるなら斬撃を掻い潜るべきだが、無理がある。何故ならその前方にはいつでも追撃可能な姿勢の敵がいる。かといって後方に逃げようものならビットの放電を食らうだろう。
どうするかと悩んだのは一瞬にも満たない間だった。鎖で繋がれた一対の扇の片割れを左のビットへ投げ、片割れを手に右のビットへ。左のビットが破損する音を聞きながら跳び上がって右のビットを蹴り飛ばし、その反動と共にフットパーツに仕込んだホバーを作動させて鎖を手繰りながら敵―――ハルピュイアに接近する。
投げた方の扇が手元に戻る頃にはハルピュイアも私の眼前で双剣を振り抜く体勢に入っていた。空中戦は彼の十八番だし私の不得手な部類だから、私が敵う道理はない。ないが、対処ぐらいはできる。
左の扇を展開して光の刃を出しながら、閉じたままの右の扇をハルピュイアのカメラアイへ突き出す。私の胴部が、突き出した右腕が、がら空きになる。それらをハルピュイアが的確に狙うのを見るより早く、真下へ向けホバーエンジンを全力でふかした。右腕の半分、肘から下を人間でいう骨のあるところまで斬られながら、放り投げられるように私の身体は上へと。

「な、っ」

予想外の行動だったらしくハルピュイアの狼狽した声が聞こえた。彼はそんな風に反応する男には見えなかったが、どうやら私の見込み違いのようだった。
ハルピュイアの動きが止まったのはその一瞬。しかしそれで充分だった。大きく広げられた、翼を模るパーツを扇の刃で裂く。右側は浅かった。後できちんとリペアしなくては。
くぐもった声を上げ、ハルピュイアが堕ちていく。ホバーの恩恵を途絶えさせた私もまた。ハルピュイアはそのまま地面に倒れ伏し、私はそのすぐ傍に着地する。

「…貴様、それほどの腕がありながら、何故…レジスタンスなどに」

ぎりぎりと、私への―――イレギュラーへの嫌悪と、負けた事への悔しさをありありと滲ませながら、ハルピュイアが呻いた。両の扇を展開していつでも反応できるようにしながら、私は首を傾げる。

「私を拾ったのがレジスタンスだから。…あぁ、でもそれも関係ないかもしれないね。どうだっていい。どっちにしたって私にとってはくだらない事だ」
「―――な、に?」
「私の力は戦うためのもの。壊すためのもの。私はそうやって作られた。偶然が重なって、戦乙女だなんて称されるようになったけれど。私は本来壊すもの。相手が正常だろうとそうでなかろうと関係ない。私はね、貴方達の言う、イレギュラーなんだよ。ずぅっと昔から、ね」
「……ならば…」
「!」

ばん、と弾かれたようにハルピュイアの身体が起き上がった。双刃のうちの片方が、私のコア部分を的確に貫こうと繰り出される。半身になる事でそれを流そうとしたが、それより早く脇腹を削られる。痛覚信号をうるさく思いながら距離を取ると、ぐらりと揺れながらも立ち上がるハルピュイアの鋭い視線と視線が合った。

「ならば貴様も処分対象だ!」

ビットに加え、致命傷ではないとはいえ自分の重要なパーツが大破していながらこの闘志は賞賛に値する。例えそれが無謀なものだとしても。
扇を構え直し、構えを取る。ビットも翼も使えぬ彼は、さて、ここからどう戦うのだろうか。楽しみでならない。




(職務狂と戦闘狂)
(夢主の扇はBファンぽい何某です)




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