盲点
「…どーお?」

私の問いかけに、ゼロは左目を覆っていた手を離し、軽く前屈みになっていた身体を起こした。それから、肩を竦める。

「どうもこうも」
「ずっと見えた?」
「あぁ」
「そうかぁ」

ハンターベース所属のレプリロイド全員に同じ事をやったが、結果は同じだった。端末を引き寄せ、ゼロに見せていた画面を眺める。画面の真ん中に黒い点、その右側で白抜きの丸がくるくると画面の中を踊っている。

「何の意味があったんだ?」

多少うんざりした様子で首を傾げたゼロに、私は笑みを返した。

「レプリロイドに盲点があるのかな、気になってさ。とりあえずハンターベースのレプリロイド全員にやらかした」
「で、結果は?」
「満場一致で『ずっと見える』、つまり盲点が存在しない」

答えながら自分で画面を見て、左目を隠す。じーっと黒い点を見つめる。視界の端に踊る白抜きの丸は、ある一点に入ると見えなくなる。
人間の目には網膜の中で視細胞の存在しない部分がある。それが所謂「盲点」だ。その大きさは満月がまるっと見えなくなるぐらいだとか何だとか言われているが、生憎私は生物学者ではないから詳しい事はわからない。ただ一つわかっているのは、普段の生活の中でこの盲点を認識する事がないという事だけだ。

「お前には見えなくなる瞬間があるのか?」
「うん。…そっかー、レプリロイドは皆ずーっと見えてるんだね」

レプリロイドは限りなく人間に近いロボット、それは理解しているつもりだ。けれどたった今、本当に「つもり」でしかなかったのだと実感した。
とても些細な事ではあるが、人間とレプリロイドは本当に違う。戦闘に出ればすぐにわかるとか言われても、大抵はこのハンターベースにいる私にとって戦闘とは遠い世界の出来事のようなものだ。傷ついて帰ってくるハンターがいれば、そうも言っていられないのだが。

「…ゼロ達は、機械、なんだねぇ」
「…? 何だ、いきなり」
「んーん」

多分、この漠然とした納得は、理解されない。それは相手がゼロでなくとも、頭のいいエイリアやシグナス、感情を汲み取るのが上手いエックスだって、きっと根本からの理解はできないだろう。人間が相手でも、きっと、理解してくれる人は少ない。私は左目から手を離し、「何でもないよ」とゼロに笑いかけた。
盲点はわからなくなった。




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