心蓋
「ゼロ、ナナシ、兄さんと戦わないで…!」

レプリフォース全体にイレギュラーの判定が出た時、アイリスはオレ達に懇願した。ハンターベースに身を寄せ、そのオペレーターとして気丈に振舞ってはいたが、堪えきれなかったのだろう。
幸か不幸か…オレには別のミッションがあった。だがゼロはカーネルの所へ行った。カーネルと、戦った。そしてその手でカーネルを殺した。
その報せと共にゼロの帰還を知ったオレはミッションを終えてハンターベースに戻ったが、ゼロもアイリスもいなかった。
仲間の制止を振り切ってハンターベースを飛び出し、ゼロとアイリスを探し回った。

二人を見つけた時、ゼロは生気を失った顔でアイリスを抱えていた。アイリスは傷だらけで動かず、あぁやっぱりな、と思う傍ら、どうしようもなくどす黒い感情に苛まれた。
声をかけようかどうか、迷う事はなかった。何を言ったって今のゼロには届かない。だから何も言わない。…エックスだったら、あるいはもっと違う判断をして、ゼロを気遣った事だろう。青い友人の優しさが少しだけ羨ましい。

「…ナナシ」

思いがけず、ゼロの方から声がかかった。あまりにも弱弱しい声だったから、それがゼロの声だと判別できるまで少し時間がかかった。いつも迷いのないゼロのこんな声、聞いた事がない。
ゼロは俯いていて、オレのいる所からではその表情を確認する事はできなかった。

「…俺は、何のために戦っているんだ」

ひくりと自分の口元が引きつるのを感じて、緩く唇を噛んだ。答えに詰まった事もあり、ゼロから視線を引き剥がして両目を伏せる。ゼロも何も言わない。
恐らくゼロはアイリスをも自分の手で殺したんだろう。鈍感な面のあるこいつの事だからアイリスにどんな感情を向けられていたのか気付いていなかったかもしれないが、それでも、ゼロの心には大きな…あまりにも大きな傷が残ってしまったようだ。
この哀れな友人に、オレは何と答えてやるべきか。一瞬そう考えたが、あまりにも空虚なその疑問に自嘲した。アイリスを殺しただろうこいつに一瞬でも殺意を抱いてしまったオレが先のゼロの問いに何を言ったところで、気休めにもならない。どころか、ゼロへの侮辱にすらなってしまうだろう。
細く溜息を吐き、ゼロに歩み寄る。同時にゼロがアイリスを抱く腕に少し力を込めた。

「…今はまだ、何も考えるな。…全部終わってからにしろ」
「……ナナシ、だが、俺は」
「オレだっていろいろ考えるさ。だが…今考えたって答えは出ないし、行動の邪魔になるだけだ」

些か冷たい物言いだったが、本心でもあった。この状況に何も思わずにいられるほど冷たい心は持ち合わせていない。だがその感傷に浸ってやれるほど暖かい心も、オレの中には存在していなかった。
ゼロはもう一度きつくアイリスを抱きしめた後、ゆっくりとその場に下ろした。ぐっと両目を閉じてすぐに顔を上げ、踵を返す。それを確認したオレも歩を進めた。本来ならアイリスを弔ってやらなければいけないところだが、その余裕はない。
まだ、黒幕がいるはずだ。レプリフォースを統括しているジェネラルか、あるいはもっと後ろにいる何かか。
迷うのも、悔やむのも、悲しむのも、憤るのも、全てが終わった後でいい。
そう自分に言い聞かせ、ぽっかりと胸に穴の空いたような空虚感からも、ゼロに向けてしまった殺意からも、オレは耳目を塞いだ。




(アイリス戦後、凹んだ割にゼロは結構さっさと気を持ち直していたなぁと思うのです。ストーリー終了後やX5ではネガティブでしたが)




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