うそなき
※ゼロが軽くキャラ崩壊。



「おかえり、ゼロ。君が帰ってきたのは大変喜ばしいな。ゼロがいるのといないのとでは仲間の―――特にエックスの士気が大幅に変わる。エックスが必要ないのではなくて、彼と同じようにゼロもハンターの柱たり得る存在だという事だ。あぁ勿論、一個人としてもとても嬉しいよ」
「なら素直に喜べよ」

流れるように自分の言いたい事を言い終えたナナシに顔を顰め、俺はそう言った。
彼女はこのハンターベースで数少ない人間で、技術者だ。俺も何度か世話になった。だが妙に偏屈なところがある。
ふっと笑いを零し、ところがね、とナナシは言う。

「そうもいかないんだよ、ゼロ」
「…何が言いたい?」

早く言えと言外に告げた。気の弱い奴だったらそれだけでビビるが、ナナシはそうもいかない。
むしろ俺の不機嫌っ面など、ナナシからしてみれば駄々をこねる幼子のそれにしか見えない、のだそうだ。

「最初は自爆だったな」
「…!」
「あの時も死んだかと思ったよ。エックスがパーツを回収してくれてよかったね?」
「あれは…」
「他にもほら? レプリフォースと戦った時、最後にシグマと戦っていただろう? 爆発に巻き込まれたんじゃないかと気が気じゃなかった」
「話を聞け!」
「あとコロニー撃墜、無事でよかったなぁ!? だがそこにきて今回のこれだ!!」

声を荒げた俺に負けじとナナシは声を張り上げた。ぐっと言葉に詰まる。ずっと仮面のように笑っていた彼女は、今は怒りを露にしている。

「君は一体、何度無茶をするなと言えば聞き入れてくれる!? 何度…無茶をすれば、無茶をやめてくれるんだ…!?」
「な…っ、ナナシ…?」

今の今までわざとらしいとすら思えるほどの口調で話していたのに、彼女は突然声を震わせ、ぼろぼろと泣き出した。ぎょっとする。
人間の女が泣き出した時の対処法なんか俺は知らない。まして偏屈で知られる技術者、ナナシへの対応なんか尚更だ。お陰で俺は盛大に混乱した。

「何度っ…何度、私は…君の……データを、見て…消さなければ…いけないのかと、迷えば…いいんだ…!!」

待て、これじゃまるで俺が悪いみたいじゃないか、いや実際俺が悪いんだろうが、まずこの状況、どうしたらいいんだ。
エックスなら気の利いた台詞の一つでも言えたかもしれないが、生憎と俺にはできない。

「ゼロ、頼むから、もう無茶…しないでくれ…お願いだから…」

そして仲間の懇願を無下にできるほど、冷徹な性格も持ち合わせていない。多分。
あぁ、くそ。

「…わかった、わかったからそんなに泣くな」
「…本当か」
「あぁ」

やや口早に肯定すると、ナナシはぱっと顔を上げた。その表情は、やはり泣いて―――
………ん?

「しらばっくれたら君のメモリーを引きずり出して皆に見せてやるからな?」

―――笑っている。
涙の跡も、赤らみも、残っている。残っているが、それ以上に笑っている。しかも、だ。新しい涙は一粒だって流れやしない。
やられた…!!

「ナナシ、お前っ…騙したな!!」
「何を失礼な。半分ぐらいは本気で泣いたぞ? 無茶をしてほしくないのも本心だ、だが君があまりにも動揺しているからなぁ、つい楽しくなって」
「つい、じゃねぇ」

俺は自分の口元がひくりと引き攣るのを感じた。何だこの、怒りとも呆れとも安心ともつかない微妙な心情は。
からからと笑い、手をひらりとさせてナナシは俺に背を向けた。

「ははは、あの様子と本体をバラされたくなかったら自愛する事だな!」

しかも何故か脅しの材料が増やされた。アイツは本気だろう。多分。
とりあえず。俺はこれからの身の振りを考えた方がいいんだろうか。




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