非情の刻
彼が密かに教えてくれた、眠りから覚めるその時がやってきていた。
その時を待って、一年が百年に思えるぐらいに待って、待って待って待ち続けて、その時が来たのが嬉しくて嬉しくて、馬鹿らしいぐらいに嬉しくて、彼が封印されたその場所に行った。

行った、ら、いるはずの彼、は。


いなかった。


どうして?
自然に目覚めるのは今日のこの日のはずだ。彼は眠りに着く直前、そっと私に教えてくれた。
もう既に目覚めた? 私がここに踏み入った瞬間に日付が変わったばかりなのに?
どうしていないの?

彼が眠っていた研究所を探して探して探して探して、何日経ったのかわからないけれど、彼はやっぱりいなかった。失意のうちに研究所を後にして、あてどなく歩き続ける。
彼がいないのなら、彼がいなくなってしまったのなら、私の世界に何の意味があるというのだろう。
エックスが作り上げた理想郷を見届け、見続けたそれを彼に教える事を生き甲斐としてきたのに、彼は、いない。
実際には私の友であるエックスではないエックスが、友であるエックスの理想を曲解してしまったために、エックスの目指した理想郷とは全く違うものになってしまっているのだが。
それを含めて、彼に伝え、教える事を、目標に生きてきたと言うのに―――

片隅で回路がショートしそうなほど膨大な思考が頭を流れ、その熱が頭全体を駆け巡った時の事だ。
あまりの頭の熱さに呻き声を上げてうずくまった私に、影が差した。
こんな所で何をしている、と問うその声は、すこしかわっていたけれど、嗚呼、間違えるはずがない! 彼だ!!
歓喜でまた頭が熱くなる。それを無視して顔を上げる。
嗚呼、ほら、やっぱり! 赤いボディも、長い金の髪も、深海色の瞳も、手に下げたセイバーも、所々変わっているけれど、何も変わっていない!!

「ゼロ!!」

彼だ、彼だ、待って待って待って探して探して探して会いたくて遭いたくて逢いたくて遇いたかった彼が、今、目の前にいる!!
嬉しい、嬉しい、嬉しい!!!
満面の笑みを浮かべた私に、彼は―――彼は。


「…お前は、俺を知っているのか?」


あまりにも無情な言葉を吐いた。




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -