そう変わらないもの
「エリア・ゼロ…」

眼下に広がる緑溢るる景色を眺めてぽつりと呟く。
ユーラシアが落ちて百年。人間や私達レプリロイドからすればかなりの時間だが、世界からすれば一瞬ほどだろうに随分様変わりしたものだ、と思う。
隣にはユーラシアを撃墜した張本人がいて、視線を投げた。彼は百年も寝ていて、記憶をなくしたり少し丸くなったりはしたが、変わっていない面もある。
その変わっていない面の一つこそが私にとっては致命的で、しかし彼は何度言っても改善しようとしない。
どうしたものかなぁと思いながら綺麗な顔を眺めていると、彼ことゼロは視線に気付いたらしく私と目を合わせた。

「どうした、ナナシ」
「ん」

落ち着き払った声、短い呼びかけ、無表情。変わらないところ。
こういうところはいいのに、と思いながら答える。

「随分変わったなぁって、ね」
「…ナナシはここに来た事があるのか?」
「ううん。でも、ユーラシアが落ちた時の事は知ってる」

ゼロから視線を剥がし、草木の生い茂る大地を見た。廃墟と化していた面影は、そこにはない。

「本当は、コロニー丸ごと落ちたんじゃないんだ」
「どういう事だ?」
「丸ごと落ちそうなのを、ゼロが止めたんだよ。っていうか、大破させたの」
「…俺が?」
「うん」

やっぱり覚えてないか、と苦笑して、ゼロの腕にしがみついた。
変わっていないところ。改善してほしいところ。…無茶ばかり、するところ。

「ゼロ…昔から、無茶ばっかりだったんだよ。エックスも私も、他の仲間も、心配ばっかりしてた」
「…そうか」

自分の事だけれど、ゼロは他人の事を聞いているかのような返事をした。覚えていないのなら仕方がないのかもしれない。
でも私は、それでもよかった。だから言葉を続けた。

「そのくせ、私やエックスには無理するなってさ…説得力なかったな。その辺は今も変わってないね」
「…そうか?」
「うん」

首をちょこんと傾げる、予想通りの反応だ。どうやら最大の難点を、彼はちっとも自覚していないらしい。
そしてそれを心配する面々を、昔ならエックスやアクセル、エイリアにシグナス、現在ならゼロを復活させた金髪の少女を、私は思い浮かべた。

「シエルの胃が心配だよ、そのうち穴開くんじゃないかな」
「…穴?」
「うん。錐で開ける感じの。痛そう」

冗談を言いながら、ゼロが無茶をする度に泣きそうな、そして申し訳なさそうな表情を浮かべる彼女を思う。ゼロは難しい顔をしていて、どうもその辺の自覚もないと見えた。
鈍感なところも昔から全然変わらないなぁ、と思いながら、しがみついたままの腕を引いた。

「ね、行こう」

そう言うと、ゼロは「あぁ」と短く頷いて歩き出した。私は邪魔にならないように腕を解き、代わりに彼の手を握った。
歩調は私を置いていかないようにかいつものそれよりゆったりしていて、こんな気遣いはできるのに何だってそんなに鈍感なの、と思わずにはいられない。
そんな鈍感な人だから、私は昔から願い続けている事を吐露してみる事にした。

「ねぇゼロ」
「何だ」
「あんまり無茶しないでよ? 私、ゼロのやる事を止めた事は昔っから一度もないけど、心配なんだからね」

言い終えた、けれどあんまり効果はないんだろうと思う。
口を噤んだゼロが次に発する言葉次第だけれど、恐らく私の予想と全く同じだろうから。

「……考えておこう」

ほらね。




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