Irregular
イレギュラーというのは、よくわからない。
「異常」と判定された連中の事などわからなくて当然なのかもしれないが、このご時世、本来の定義を失った「イレギュラー」は沢山いるし、そういった連中の事はわかりたいとは思う。
だが彼の事はどんなに理解しようとしてもできない、と。風に靡く長い金髪と、それ以上に鮮烈な紅を見ながらぼんやり思った。

「…無事か?」

振り返った彼は、静謐さを湛えた蒼い目で真っ直ぐ私を見据えた。
その足元に転がった残骸は、一種の芸術性を孕んだ彼とは酷くアンバランスで、滑稽だ。

「…うん、大丈夫」

きっと私が浮かべた笑みも、彼と並べられてしまえば、ミスマッチして滑稽なんだろう。
私は酷く冷静で、ついさっきまで元の定義のイレギュラーに襲われていたというのに、鼓動の一つだって乱れやしなかった。
それが自身を嘲る諦観のせいか、彼が助けてくれるとどこかで信じているせいか、それこそわからないけれど。

「相変わらず強いんだね」

少しだけ、彼の目元がぴくりと動いた。何の意図があったのかは知らない。
ただその口が何かを言い返そうとする事はなくて、だから私は自分の言葉を続けた。

「助けてくれてありがとう。まだ死にたくないから嬉しいよ」
「死にたくないなら出てくるな」
「うん、まぁ、そうなんだけど」

溜息混じりに彼が零したのは、紛れもなく私を案じての言葉だった。私は曖昧に笑う。
幾度かの逢瀬で知った。
彼はとても強くて、とても冷静で、とても美しくて、とても熱くて、とても不器用で、とても―――優しい。
こんなにも綺麗で、こんなにも優しい彼が、「イレギュラー」だなんて。信じられるはずもない。
まぁ、ネオ・アルカディアと戦っているらしいし、そういう意味では紛れもなくイレギュラーなのだろうけれど。

「危険を承知で出てくる必要はないだろう」
「うん、まぁ、そうなんだけど」

さっきと全く同じ言葉を返してから、しまった、と思う。科学者のように賢くもなければ文学者のように沢山の言葉を操れもしない私は、こうして頭の悪い回答をしては後悔する。だからそれを少しでも補うために、えっと、と首を傾げて言葉を続けた。

「前、ここで戦ってたよね?」
「…ああ」
「だから、もういいかなって思ったんだ。何かあっても君が助けてくれるかなーとか」
「………」

彼はいよいよあからさまに顔を顰めた。そんな顔をしていても、彼はとても綺麗だ。
はぁ、とさっきより大きな溜息を零すその仕種だって、まるでこの世のものではないようにさえ感じてしまう。

「…いつもいるとは限らん」
「あ、そっか。でも賢将様や闘将様が助けてくれた事もあるし、大丈夫だよ」

彼の言葉は正論で、私のはただの楽観視だ。わかっているけれど、構うもんか。
彼と言葉を交わせるのなら何だっていい。

「それよりね、今日はちゃんと言いたい事があって出てきてるんだよ」
「………」

彼は深い蒼の双眸を私に向けて、無言の催促をした。というのは私の勝手な想像だけれど、きっと私は催促されている。
早く続きを言えと、まぁそういう事でしょう。多分。きっと。楽観視。

「何回か会ってるのに、私達お互いの名前すら知らないでしょ?私の名前教えるからさ、君の名前も教えてよ」




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