_2009

 かさり、小さく音がした。
 足元を見たなら、昔学芸会で見たことのある紙の花が落ちている。
 踏んでしまったのだろう、それはぐしゃりとひしゃげて、歪なごみと化していた。

「ああ……」

 漏れたそれはもちろん感嘆ではなく、また、踏んでしまった後悔でもない。
 落胆であり、嫌悪感でもある。
 開けた扉の先は薄暗く、無造作に閉められたままのカーテンから覗く外はまだ明るかった。
 自宅でもないのに家主に声も掛けずに侵入するのは、そうしてくれと雇い主から言われているからに他ならず、別に自分が犯罪者だからではない。
 漏れる光を頼りに家の中を確認すれば、虚しいほど至るところに紙の花が咲いていた。
 まさに溢れている。
 出どころを探るべく溢れ出すもとを視線で辿ったなら、どうやら二階の寝室のようだった。

「くすくす、くすくすくす」

 ひたひたと花を掻き分け、ときに少しだけ踏み躙りながらもそこへ行く。
 中からは一人の女の小さな笑い声が聞こえ、かさかさと、花を生み出しているだろう音がした。

「……ああ……」

 雇い主を呪いながらも、仕事を受けてしまった自分にまた落胆をする。
 今日からわたしは、ここで、この女の世話をするのだ。
 カーテンから覗く外は明るく、目を細めてから、どこかに墜とされたような憂鬱な気分に襲われた。


 踏み躙られたのは生み出す女か、はたまた、来訪したわたしか。

踏み躙られた花



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© 楽観的木曜日の女