act. 7-1


「わあああああ、あのお店のお洋服、とても可愛いです!」
「見て!その隣の服、サイマジに似合いそう」

私は店口に掛けられている淡い藍色のワンピースを手に取ってサイマジの胸にあてがう。ガールも私と一緒になって服に食いついて目を輝かせる。

「うわ……やばいなこれは。荷物持ちフラグだ」
「そうなりそうだな。 マスター無駄遣いは控えてくださいね」
「はーい! もちろん荷物は持ってくれるよね?」
「まぁ条件によるな」
「じゃあ、タピオカジュース奢ってあげる」
「よし、乗った」

今私が人前でモンスターたちを召喚して、堂々と喋っていると思われるかもしれないけど、今は、ちょっと特殊なことをしている。通り過ぎる人もタピオカジュースを作ってくれた店員さんも、誰も魔術師たちに対して反応はしない。現在、魔法で皆人間に近い姿に変わっているからだ。肌の色も服装も、人間そのものだ。

『ねえねえ、あの人達見て』

一つ撤回。彼らに誰も反応してないと言ったけれど、がっつりと反応を示されている。彼らは一人残らず美人だから、人の美貌に興味がある人なら必ず頬を染めて振り返ってる。そんな中に加わってる私って、ひょっとしたら相当場違いかも。

「マスター」
「ん?」

ぼーっと商品を眺めている所に、綺麗に隣接されて置かれているアクセサリーの一つを拾ったサイマジが、私の髪へと当てて見せた。

「思った通り、よくお似合いになります」

彼女がそんなことをしてニコ、と小さく笑えば周囲にいた男女はほうっと彼女に見惚れる。時折サイマジの性別を見失ってしまう。失礼な意味は少しも込めてはいないけど口に出すと彼女に失敬だと思うので、私は顔を赤面させるだけにしておく。



サイマジのイケメン言動に翻弄されている間に、ブラックカオスは何処かに消えようとする。

「はい行かせないよ」
「……そう言うと思ったが、今日は自由にさせてもらう」
「あっ」

掴み取ったブラックカオスの腕はするりと抜けて、揺れる長い黒髪はあっという間に人混みに呑まれて行ってしまった。

「もう、折角のお出かけなのに…」
「まあ自由にさせとけばいい。それより、今日の目的はカードショップめぐりだろ?」
「県内大会まで残り1週間の祝日ですから、きっと他の決闘者も対策を練るために行動しているはずです」

サイマジの言う通りだ。

私達は一週間後の公式大会に備えての買い物をしに、遥々電車でこの栄えた街に来たのだ。公式の大会へエントリーするのは久しぶりであり、彼ら魔導師達で出場するのは初めてで、楽しみが二倍になっていた。今日は新しい強力カードを収得できるといいな。

「ああっあの店すごい好きなの、秋の新作ワンピースだって!!」
「きゃー可愛いっ」
「……マスター、マナ。」



       * * *



カードショップを回った後、自由に行動しても良いというブラマジとの約束を果し、私とガールとブレイカーの3人で自由行動に街へ繰り出した。ブラマジとサイマジはカフェで荷物を見てくれている。

「おい、なんだよあの店、入り口からすげー音が聞こえたぞ」
「ゲームセンターかぁ、寄りたい?」
「えー!マスター、そんな所よりあのお店見ましょうよー。猫ちゃんワンちゃんいっぱいいますよっ」
「そんなの後でいいじゃねえか。こっちが先だ」
「そっちだって後でいいじゃない!」
「まーまーまーまー…」

火花を散らす二人を介する間で、遠くの人混みから見たことのある姿が目に入った。    ブラックカオス!

「! おい、どこいくんだよ名前ッ!」
「自由に見てて!すぐ戻るから!」

二人に二千円ずつ渡して、その場から走って彼の後を追った。彼は大通りの角を曲がってしまった。大通りは人が溢れているのがう可能性大だ。  角を曲がると赤信号が私を阻み、車が高速で交差していた。ああ、ブラックカオスはもうあっちに渡っちゃったかな。まぁ今日くらい自由にさせろって言っていたしこれでいいのかもなぁ。
でも………折角初めて皆が人間として一緒にお出かけをしたから、皆で楽しみたかったんだけどな。 




私が切れた息をふうと整えた時に近くで女の人のやけに楽しそうなキンキン声が耳を貫いた。すごいなぁ、現代の女性のエネルギッシュな所は…………………………って、
その華やかな女の人達に囲まれている中に、私の探していた人(魔法使い)が居る件。

『髪長いのにぜんぜん似合ってるなんてすご〜い。何処かの国のハーフなんですかー』
『カラオケ行きませんか?お金はこっちが払うんでー』
「………」
『シカトしないでくださいよー』

華やかな人に囲まれてなかなか絵になっているのに、中心に居る肝心の男性、ブラックカオスは、ものすごい睥睨した顔でいる。 まったく…、嫌がる男に詰め寄るなんて最低だ!!!!!!きっとそのまま、ブラックカオスを拐かすつもりなんだ。許せない、あの女の人達にお灸をすえてやらねば!

「ブラックカオ…」

ス、と言おうとして私は口をシャットダウンする。駄目だ。こんな名前で人を呼んだらペンネームと思われる、何かのオフ会の連中かと思われる!!じゃあ、どうやってブラックカオスを呼べば……

「!」

私が細かいことで窮している間に、ブラックカオスが見開いてこっちを見た。気づいてくれたようだ。よかっ、よくない。なんかすっごく怒ってる。

『きゃっ、ちょ、ちょっとお!』

取り囲んでいる女の人の肩を割いて、此方に早足で来る。凄まじい顔はキープしたままで私の腕をしっかりと掴んで大股で歩いて行く。

「あ、ちょ、ちょっとま」
「来い」

大股に加えて早足じゃ私の歩幅に合わなくて、何度も躓きそうになっても彼は歩みを止めてはくれなかった。
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