第7話



(お師匠様はやくはやくっ)
(そう急がせるんじゃない。慌てると転び兼ねないぞ)
(わわっ!)

……言った側で直ぐこれだ。この娘はいつも奇想天外な行動ばかりで、魔術を操る者に向いてないのではないかと頭を抱えてしまう。不時着で膝を痛めたのか膝を撫でているマナに、表マスターが駆け寄った。

「ガール! 久しぶり〜」
(マスター!お久しぶりですっ)
(失礼致します)
(………あれ、マスターがお二人??)

床で胡坐をかいている闇マスターと手前の表マスターを忙しなく見比べる。確かマナにはまだこの怪奇現象を伝えていなかったな。目をぐるぐると回転させて今にも混乱し兼ねないマナをまず落ち着かせて話を聞かせた。


(お師匠様、魔力強すぎですよぅ。マスターを分裂させちゃうなんて)
(私は何も行ってない。原因は未解明だ)
「ガールはどうしてたんだ? 最近顔出さないから心配したぜ」
(修業をしていました!)
「そうか。一流の魔術師が直々に教えてもらうなんて滅多に出来ないからな、無駄にならないように頑張れよ!」
(――だそうだ、マナ)

マナは頭に手を置いて、回避率の高い苦笑いを見せる。

「ボクー!今日は名前ッちゃんがくるから掃除しようって言ったでしょ!」
「今日もニートだ飯がうまい」
「哺乳瓶でコーラ飲んでないで働け」

表マスターは携えている箒で闇マスターを叩く。

(名前ッ様が来るのですか)
「うん」
(?? マスターマスター、名前ッ様とは?)

首をかしげるマナを見るや否や、闇マスターはがばっと御身を起こして私の前に仁王立ちをした。

「名前ッってのはな、ブラマジの! 想い人だ!」
(な………!)
(えっ)

な、なんて事を! 

私は膝をついて堕落した。体の中の血液が顔に集結し、火事のように燃え上がる熱が籠る。

(お師匠様の好きな人ーっ!?)
(〜〜〜〜〜っ)
「悪い。口がすべったぜ。でもガールだったからまだマシだろ?」

闇マスターは私の肩を叩く仕草をした。真偽を疑うまでもなく、最初からマナに言う気だったと見受ける。赤に染まった顔を見られたくないので俯いたまま呟く。

「ご想像なさったください、自分が弟子を持ったとして、その弟子に自分の想い人を知られた時の事を……」

少し顔をあげて目を向けると、闇マスターは顎に手を当てて瞳を閉じた。

「猛烈に死にたくなったぜ」
(そうでしょう……)

自分の発した声音に、更なる情けなさを身に沁みこませた。



       * * *



「御免くださーい」
「いらっしゃい名前ッちゃん」
「YO!」
「闇遊戯くん、ブラック・マジシャンこんにちは。ん?」

名前ッ様は私の背後にいるマナに気がついた。名前ッ様が来ても自分からは食い掛からないようにと命令したマナは、ぱあっと顔を明るくさせた。釣られるように名前ッ様も顔を晴れにする。

「も、もしかして、ブラック・マジシャンのお孫さん!?」
「孫って!」
「ふっははっふははははははは」

笑いすぎですよ…闇マスター。

(いえ……孫ではありません。私の弟子である魔術師、ブラック・マジシャン・ガールでございます)
(初めまして名前ッ様!)

黄金の髪を乱す勢いでお辞儀をするマナを見て、名前ッ様はぽっと頬を桃色にして手を震わせる。

「か……可愛い!ブラック・マジシャンにこんな可愛い教え子がいたなんて……!!
こちらこそ初めまして!」



………………………………
………………………



(素敵な方ですね。もー お師匠さまも隅に置けないんだからっ)
(うるさいぞマナ)

私はショックを胸に収めるのに大変な努力を要していた。耳に入ってすり抜けるマナの囀りさえ黙らそ気が起きない。
闇マスターにも自分の恋路で苛まれているのに、弟子にまで……。恋とは自分の不甲斐無さを滲み出す病なのかもしれない。時の魔術師に頼んで時間を取り戻し失態を無きものにしたいが、周りにリスクが掛かってしまうので容易くは出来ない。
私はずっと眉に力を込めているのにマナは目もくれず、チラチラと名前ッ様を見ている。

(名前ッ様には伝えたんですか?)
(何をだ……)
(自分の気持ちをですよっ)

なぜこうも穿りたがるのだ。

(お師匠さまってばいつも自分の使命はたすこと第一って感じでしたから。そんなお師匠さまが恋なんてただならぬ事ですっ!だから応援したくなるんですよ、ていうか、心配でなりません)
(弟子に応援される道理も、心配される道理もない)

マナの言う応援とは、手出しをするという意味と同じ類だろう。そんなのは悪い予感しかしない。

「ブラック・マジシャンちょっといいー?」
(はい)
「名前ッちゃんのデッキの罠カードにさ…」

表マスターに呼ばれカウンターの方へ向かった。私はこの時気が付かなかった。マナと闇マスターがにやりと笑ったのを。



(お師匠さま!)
(? 何だマナ、今マスターと話を……)
(これを、見ていてくださいね)

そう言って突き出した拳を開くと、目の前に穴の開いたコインがぶら下がった。細い紐を通されたそれは左右に揺れ始める。

(また新しい遊びを考えたのか。悪いが後に…zzzzZ)
(よしっ成功!)
「ナイス!流石魔法使いの弟子」



「あれ?ブラック・マジシャン、もしかして」
「もしかしなくても、寝てるんだぜ!」
(…すー…)
「精霊も寝るんだ……」

「悪い名前ッっ。ちょっとライバル店でパックサーチしてくるから留守番頼むぜ!」
「え?」
「何言ってんだよもう一人のボ…むぐっ、むー!」
(お師匠様疲れているみたいので、見守って居てくださいませ。マスター二人の護衛は私がしますのでっ)
「直ぐ戻ってくる。よろしくな」

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